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#タクシードライバーは見た「タクシー広告の弊害」

都内のタクシーでは動画広告が当たり前になっている。
後部座席の前にモニターが取り付けられ、その画面に広告が流れる。
種類によっては、乗っているお客さんの顔を認識して流す内容を変えるものまである。
最近では広告を乗ってきてすぐに消すお客様も居れば、画面の前を避けるように運転席の後ろに座るお客様もいる。
歓迎されている広告とは言えないだろう。
そんなタクシーの車内広告で、少し困ったことが起こった。

まだタクシーの車内に広告が取り付けられて間もない頃、乗ってすぐに広告を話題にする二名の男女のお客様が乗車した。
「あ、これ、顔認証して動画流れるってやつですよね」
「あー、そうそう」
「初めて乗りました、何流れるんだろう」
後部座席の運転席後ろに50代ほどの男性、助手席後ろに40代ほどの女性、女性は初めてそのタイプのタクシーに乗ったということもあって広告の話題を口にしたが、お仕事の移動中ですぐに仕事の話題に戻った。

広告は乗ってすぐには流れない。
お客様が乗ってきても、実車ボタンが押されなければ起動せず、さらにその後、数秒時間を空けてようやく開始される。
その間にお仕事の話題も終わり、互いの家族の話題へと入っていった。
そして流れる、広告。
「困ったときには○○銀行のローン、、、、」
流れてきた広告にはお互い触れず、家族の話題が続いている。
続いているというより、間を埋めようと二人して会話を止めず口が回る。
無理もない、何が流れるのかと思えば銀行のローンの広告なのだから反応がしずらい。

―――あ、これ、そういえば皆同じように流れてるんだよな。
広告が流れる前に分かっていた。うちの会社に取り付けられた車内広告は顔認識がされていない。誰が座ろうと同じ広告が流れるようになっている。
ただ、一発目に何が流れるかまでわざわざ把握していないし、顔認識されていないことを言うべきか一瞬迷ったが、後ろの会話が続いていて何も言わなかった。
後ろではなんとなく触れられない空気が流れている. . . . 。
遂には家族の話題まで区切りがついた。

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」


―――どうしてくれるんだ!
―――くだらねぇ広告で変な空気にしてくれんなよ!

いちいち
「あ、お客様、うちの車についてる動画広告は顔認識タイプではなくて、放映期間中は誰が座ろうがずっと同じ広告が流れるんです、、
だから、気にしないでください」

なんて言おうと思ったわ!
でも言うには、まず顔認識タイプの説明があったりして、少し長くなるから止めたよ!

実際はそう荒れた訳ではないが、声を掛けようか少し葛藤した。
すると、
「あはは、これ、なんかローンの流れちゃってます、そう見えたのかな」
「はははは、、あーそういえばさぁ」
後部座席後ろの女性が苦笑いとともに触れる。
男性もそれに笑うが、広告には触れず次の話題に移り、結局広告の話題はそれっきりで降りていった。

あの瞬間、タクシー広告は3人にとって害でしかなかった。

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