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はい、縫製室です/合成化学物質過敏症を知ってくれたらありがたい

 それは縫製室にはいって1年が経った頃の事でした。

 胸が詰まる感覚、文字通り堰を切ったように始まった咳込みは、いつ終わるか知れず、呼吸が止まるかとおもったほどでした。ぜんそく様の発作です。
 いろいろ検討したところ、どうやらきっかけとなった要因は…

 【ポリウレタン】です。

ポリウレタンが劣化するとこんなことになります。

ポリウレタンの特徴とメリット、デメリットについて|繊維の種類と特徴


 衣類のタグを確認すると2%程度から5%程度までポリウレタンを含まれていることが多いようです。ほんの少しでも充分に伸縮性を発揮します。着脱にストレスがなく、シルエットが美しいのが特徴です。ですが、1年もするとステッチ部分(糸で縫い留められているズボンの裾など)で緩んだゴムのように素材が伸びてしまうなど劣化が目立ちます。
 劣化すると同時に「臭い」が立ちます。その臭いはきわめて化学臭で、気分が悪くなってしまいます。

 縫製室の経験の長いスタッフの話ですと、海外製品のなかにはポリウレタンを含んだ製品はその製造過程で充分な洗浄が行われていないことが原因で、製品の臭いがキツイと言います。まったくその通りです。


 それまでの私と私の家族が身に着ける衣類は、綿100%であることが基本でした。それは肌触りが心地良いという理由でもあるし、着慣れている繊維であるという理由もあります。
 あまりにそれがあたりまえだったものですから、縫製室にやってくる商品のほとんどすべてが「化学合成繊維」商品であることに今更ながら気づいたのでした。つまり世の中の多くの人が身に着ける衣類は、ほぼほぼ100%近く化学合成繊維だってことなんですね。これには正直言いまして、心底驚いたのでした。

 確かに、年々、《綿100%の衣類》を探し当てるのは困難になってきていました。それどころか最近では《綿100%の生地》も棚から少しずつその置かれている面積を小さくされてきています。
 綿製品は比較的割高です。国産品となればなおさらです。
 乳幼児の衣類ではまだまだあたりまえのように思える綿100%の衣類ですが、幼児からはもう探すのは、肌着ですら難しいです。

 そんな理由で、我が家は肌着を除いて、パジャマを初めズボンなどは私のハンドメイドであることが多かったのです。


 ハンドメイドの技術をあわよくば専門技術者から教われたらラッキーと、縫製室スタッフの求人の面接を受けた私は、本当にたまたまそのとき「経験者はやり方が違うといってすぐに辞めてしまうから、今度は初心者を採用しよう」との試みのタイミングで採用が決定したのでした。(この経緯はまた別のお話で。)

 そこで、こんなに化学繊維ばかりが集まっているとは想像だにしていなかったのです。
 正直に言います。手に取る繊維は、常に私に疑問を浮かべさせました。

「まるでダンボールを触っているみたい」
「まるで紙やプラスチックを触っているみたい」
「落ち着かない心地」

 そして、最近ではポリエステルの擬態がおそろしいくらいにすさまじいです。触り心地ではまったく見分けがつきません。どれもこれもタグをみれば「ポリエステル100%」であるにも関わらず、どれもこれもまるで天然繊維の風合いを醸し出しています。手触りも見た目も天然繊維同様なのだから、問題ないように思えます。
 それでも、どうしても緊張感がまとわりつくのです。この感覚だけはどうにもなりません。

 身に着けている衣類が醸し出す波動みたいなものが、着ている人の精神状態に大きく影響を及ぼすと私は感じます。

 「ホッとする服」は確かにあります。

 綿100%ならすべて良いか、というと実はそうでもありません。それは同じ野菜であっても自然栽培、有機栽培、従来農法で味や食べ心地が違うのとまったく一緒です。繊維を作る植物を育てるのは土からですしね。
 そして、どれだけ育てる過程で手をかけていても、繊維になるまでの工程で薬剤がふんだんに使われていては元も子もなくなります。それは天然自然素材の精油やクレイ(鉱物)が石油製品に混ぜた加工品になっていて、単に成分の一部に加えられているだけなのに「自然の癒し」と広告されているのと似ています。
 麻(リネン)も同じです。オーガニックと打たれているのも同じです。国際基準の認定があるかどうかくらいでしょうか、判断の基準は。それ以外だと「自分の感覚」に頼るしかありません。

 慣れない化学合成製品に囲まれて1年もたったころに、いよいよ、ポリウレタンの刺激の一滴で、アレルギー症状を引き起こしてしまったのでしょう。


 指無し手袋を着用するとだいぶん違いがありました。手から入る情報を遮ることができることで、こんなにも楽になるとは思いもしませんでした。オーガニック素材の指無し手袋を愛用しています。

 発作が起きる前までは、縫製室に入った当初から「衣類の臭い」がきつくてマスク着用が常でした。けれど、いざ発作が起きてしまったあとではゆるやかな呼吸困難を起こしている状態なのでマスク着用はかえって身体の負担になります。実はそのタイミングで「マスク着用の推奨」が始まっていましたが、アレルギー症状を理由に免除されていると職場のスタッフの間では了承されていました。


 「ホッとする服」が、そうであるとわかる感覚が、どうして”すべての人”に備わることがないんでしょう。どうして、これが少数派(マイノリティ)の感覚なのでしょう。

 私には「あたりまえ」の感覚も、多くの人にとっては理解不能です。

 化学合成繊維による身体への影響は、化学物質過敏症の症状にあてはまると考えられます。不調という身体の変化に敏感になったとき、非常に不安を覚えますが、その原因が「化学合成物質の暴露が限度を超えたときに起こしている症状」なのだと理解できると、落ち着きを取り戻すことができました。
 そうでなければ、理由も原因もわからず、ただただ不安に陥り、精神的に追い詰められ、さらに二次的な症状として「突然、車道に飛び出したくなる衝動にかられる」ことも多々あるからです。


 「臭い」は「匂い」とも表します。
 不快な”におい”は「臭い」となります。心地よい”におい”は「匂い」ですね。
 どちらも脳に刺激を与えます。そのルートは同じです。でももたらす結果が違います。
 アロマセラピーでは、精油の香りが心身に影響を与えることで効果が期待されます。薬効のある芳香成分を高濃度に抽出したものが精油です。しかし、どの精油も、誰にとっても「良い効果」となるかというと実は違います。場合によっては気分を落ち込ませてしまう影響も持ち得ます。その人の心身の状態によってもたらす結果は違ってくるのです。まぁ、細かいことはさておき、アロマセラピーが一般的に「良い効果」をもたらすのであれば、化学合成物質の化学臭がもたらす効果は「悪い結果」をもたらすと考えてもおかしくはありません。少なくとも「なにも影響を与えない」とは言い切れないはずです。なぜ、そこだけが無視されてしまうのでしょう。


 

「五感」と「五官」

五感:目、耳、鼻、舌、皮膚の五官を通じて外界の物事を感ずる視、聴、嗅、味、触の五つの感覚。
五官:五感を生ずる五つの感覚器官。目・耳・鼻・舌・皮膚。

 (眺めているとすぐさまゲシュタルト崩壊しそうな字面…。) 

 特に「目」ばかりが使われがちな現代社会では、どんな情報源もほぼほぼ「目」からはいってくることが多いように感じます。その分、他の感覚が鈍っているようにも思います。たまに「目を使う」ことを意図してやめて、いつも通りのことをしてみようとすると、特にそれを感じます。
 私は度の強い眼鏡をかけているので、眼鏡をはずすだけでそれを実感します。目からの情報が少ないとわかるやいなや、他の五感からの情報に集中できるのですね。

 現代社会の暮らしぶりが、いろんな面で障害を引き起こしているのだなぁ。便利さがもたらす不具合、ですね。

 


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