それはいやだなぁ

「おかあさ～ん、これ食べていい？」
「うん、いいよ」

「おかあさ～ん、ねぇ、これ見ていい？」
「あぁ、いいよ～」

　ねぇ、それ。はしょりすぎてませんか。

　こどもってなんでも聞いてきますよね。
　（それくらい自分で考えてよ！イチイチ聞かないの！わかるでしょ？）って思ってしまうほど。あぁ、でもこどもの話は聴いてあげなきゃなんて、つきあってあげるわけです。そのくせ（なんでちゃんと聞かないで勝手にやるのよ…困るじゃないのよ、もう）なんていうことも何割が生じます。
　どうしてかしら。

最初の場面。もう一度補足をつけて書きます。
➀
「おかあさ～ん、これ食べていい？」＝質問
「うん、いいよ」＝了承と許可

②
「おかあさ～ん、ねぇ、これ見ていい？」＝許可申請
「・・・うん。いいよ」＝承認と受諾

　熟語はなんとなくのイメージで受け取ってもらえればいいのですが、この２つのカギカッコの間にもっと会話があってもいいですよ！

➀
「おかあさ～ん、これ食べていい？」＝質問
「え～、いやだなぁ」＝気持ち
「え、なんで。だめなの？」＝確認
「う～ん。これはあとでみんなでゆっくり食べたいな～って思いながら買ってきたんだよね。」＝伝達
「そっかぁ。じゃあ、ちょっとだけ今ちょうだい？すごく今、食べたい気分なんだよ～。あとでみんなと食べるとき一緒に食べるから！」＝交渉
「そっか。今、食べたいって時あるもんね。わかる。わかった。ちょっとだけいいよ。でも、あとで読んだらちゃんと来てね？一緒に食べようね？」＝共感。承認。申し出の受諾。交渉成立。約束。
「いいよ～。お母さんのコーヒーもいれてあげる～」＝了承。
「あはは。それはどうもありがとう。よろしくお願いします。」＝感謝。

②
「おかあさ～ん、ねえ、これ見ていい？」＝許可申請
「え～、いやだなぁ」＝気持ち
「いやなの？　そうかぁ、でも見てみたいな～。なんだろうなぁ。」＝受容。確認。気持ち。
「そんなに見てみたい？」＝歩み寄り。思いやり。受け容れたい気持ち。
「うん！見たい！」＝交渉。
「そうだよね。見てみたいよね…」＝確認。同意。
「わかった。いいよ。」＝受諾。了承。
「ありがとう！」＝感謝。

　最近、思うんです。日本語の意味がとても狭いなぁと。日本語ってもっと情が深く、言葉の裏にある情景が思い浮かべられる美しい言葉です。短い言葉のなかからあふれんばかりの風景が、込められた思いにのって、世界を映し出してくれるほどのものです。２つの会話で済むようなことが、こんなに増えるのはまだるっこしいかもしれません。でも、それに付き合うのは、それだけの信頼関係があるからできること。初対面の人に失礼が無いように言葉を重ねようと思ったとしても、ほどほどのラインがあります。これ以上はな・・・と遠慮してしまいます。遠慮する間柄、遠慮が必要な間柄なら、そうなります。とことん納得いくところまで、面倒くさがらずにつきあってくれる相手は、家族だったり、友達だったり、そんなにつきあいが深いわけではないけど自分を知ろうと努めようとしてくれる人だったり、優しさの上に成り立つ関係のような気がします。

　おや、あちらで若々しい会社員が荷物を抱えてやってくるのが見えますよ。それを見つけた上司が声をかけます。
「おぉ！どうだい、調子は？」
「どうもこうも無いですよ、まったく！こんなにいいアイディアなのに、ちっとも良さを理解してくれないんですから。今日は別のところに行ってきます！」

　彼が立ち去ると、反対の方からも若者が。同じように声をかけてみることにしたようです。
「はい！話を聴いてもらえてとてもうれしいです。最初はお悩みの様子だったんですが、なにか不安な様子でしたので、なにか困ったことでもあるのかとちょっとお話してたんです。それがすぐに了承できないお悩みの原因につながっていると感じまして、別の提案をしてみたところ、それなら…とまた別の提案をしてくださったんです。それで今朝は新しい資料をお持ちするところです！」

　なんでも「いいよ」だけでは、伝わらないんですね。それが包容力のつもりであっても。「いやだなぁ」って言葉は、相手を拒否するものではなく、気持ちを伝える言葉です。（イヤって言ってもいいんだよ。）というメッセージは選択肢があるという自由を伝えてくれます。「いやだなぁ」という言葉をどのように言われているか、想像できるでしょう？　優しい目をしています。（これは私の気持ち。あなたの気持ちや考えを聴かせて？）と目が語っています。聴く耳を持っているという信頼は、気持ちと言葉をどんどん引き出してくれます。
　美しい日本語という音を聴くだけでは、伝わらないと私は思います。日本語のやりとりは美しい。そのやりとりは、対話　です。

　そして、私は伝えたいことがあります。

　どんなことがあっても　最後は必ず感謝でしめくくられるんだよ。
　つらいこと、大変なこと、困ったこと、いろんなことにこれから出会うけど、答えは知っていてほしい。最後の答えは「ありがとう」なんだよ。それだけわかっていれば、きっと大丈夫。

　あなたなら、大丈夫。