通信制高等学校の制度見直しに向けた検討会議(2021年9月)
通信制高等学校の制度見直し 「対面授業を導入」が話題に
話題の焦点は、「通信制なのに対面授業を導入?」「通信だから選んだのでは?」という疑問のようでした。そしてなにより「対面が苦手な不登校児童生徒の進学先」のイメージも先行しているようで、不登校児童生徒の学習環境を懸念する声も見られました。
記事の元となった情報を探してみました。
萩生田光一文部科学大臣記者会見録(令和3年9月24日)
文科相萩生田大臣の会見発言内容です。
観点1
通信制高校は、当初、勤労青少年を前提として、自宅などにおいて「自学自習」に取り組むことを原則とした教育制度として創設された
観点2
近年は、生徒の多くが不登校経験者などの16歳から18歳までの生徒となっており、制度創設当初に想定していた生徒像とは異なる状況にある
課題1
現在の生徒の実態を踏まえた制度の見直し
課題2
広域通信制高校の設置数が急激に増加をしており、一部の学校においては、不適切な学校運営や教育活動の実態が見られる
・見直すべき点
広域通信制高校に対する設置認可や監督の在り方
・考えられる要因
広域通信制高校が設置をする「サテライト施設」が、所轄庁である都道府県の圏域を越えて全国各地に設置
・見直しの目的
様々な背景から通信制高校に在籍する全ての生徒が適切な高校教育を受けられるよう
・具体的な改善策
関係法令の改正を含めた必要な措置を講じる
「令和の日本型学校教育」の実現に向けた通信制高等学校の在り方に関する調査研究協力者会議(第1回)
このうち資料3から、その焦点と課題の流れが読み取れます。
【資料3】 議論を進める上での共通認識及び本会議の検討課題(案)
令和3年 9月28日
【最新の議事録資料等】
「令和の日本型学校教育」の実現に向けた通信制高等学校の在り方に関する調査研究協力者会議 議事要旨・議事録・配付資料
参考動画:
早わかり…というわけではありませんが、ざっくりと問題点および課題点の一側面が分かりやすく解説されているかと思います。
動画終盤の「学習ログと個人情報」「高校の目的ってなんだ?」のあたりなど、心にとめておきたい点かと。
20分程度の動画です。
不登校運動と通信制高校
通信制高校は、特に中学校の間に学校に登校する機会が少ない生徒の進路のひとつに挙げられるようになりました。すでに「勤労青年のため」の印象は薄れている気がします。ですが、通信制高校の情報は在籍校からは少なく、あっても県立のものくらいで、私立ましてや広域通信制高校の情報は皆無といってよいものでした。
学校に通常投稿しない生徒の進路のひとつとして考える通信制高校の情報は、主にインターネットと、不登校関連の情報グループから得ることになります。
これらのさまざまな理由が想定されます。いずれも「中学校に、目立った欠席状況が無ければ」生じない理由で、なおかつ、現役の中学生が、現役で進学先を選ぶ状況で起こっていることです。
kokageでは「高校に進学する」ことを考えることについては、このように書いています。
ホームページ:ホームスクールから高校進学の道すじ
関連note:高校生(15歳から18歳まで)時代をどう過ごすか。
「高校をどうするか」の前に、15歳から18歳までの時間をどのように過ごすか、という問いかけです。「高校に行く目的はなんですか?」と考えることを提案しています。そしてもしも”高校に進学する”と決定したならば、その道筋はあるのだ、ということを解説しています。
その前提にあるのは、「【教育を選ぶ】意思決定がありますか?」という問いです。高校で学ぶ目的を明確に持つ、個人の選択としての高校選びです。
学歴主義社会への問いかけ
冒頭の記事抜粋部分に戻ります。
”勤労青少年を対象としていた制度だが、近年は、生徒の多くが不登校経験者などの16歳から18歳までの生徒となっている”ということですが、この根本的な要因はなんだと考えられているのでしょうか。
「要因は不登校だ」と思われているのでしょうか?
通信制高校が、不登校の「受け皿」となりつつある現状に対応しなければならない、ということを指しているのでしょうか。
それはある意味、「不登校が増えているので、仕方がない」という意味なのでしょうか。
では、通信制高校が、不登校の「受け皿」になった根本原因はなんだと考られているのでしょうか…。そんな疑問が頭をもたげます。
ここで、ぜひとも「疑問に思って」いただきたいのですが、「15歳は必ず高校に行くもの」でしょうか。どちらかといえば、「高校を出ておかないと、社会的弱者に陥る可能性が高まる社会だから、高校に行く必要性を感じている」というのがより正確な判断のしどころだと思います。確かに、勤労青年を対象にした前提でもそれは同じ理由で、選ばれたのではないでしょうか。職場でよりよい待遇を得る条件を満たすためや、資格取得に必要だったはずです。大学進学予定もそのひとつだったかもしれません。
しかし、いわゆる不登校からの進学先として選ぶ動機は、やや様相が異なります。記事抜粋の文中に「不登校経験者」なる語句が使われていることに、奇妙な驚きと違和感を隠し切れませんが、まさにその言葉が示す通りです。
「不登校経験者」なる言葉が示すもの
なにかしらの理由で、ある日突然、行くはずの学校に登校しなくなった・できなくなった生徒とその家族は、【本来ならば】の姿を想像します。本来ならば、高校に問題なく進学していたはず。本来ならば、学習能力に問題なかったはず。本来ならば、内申点に問題なかったはず。そして【全日制高校に入学できた】はずだ、と。そう考えるのはしごく当然のことです。
ましてや、あったはずの未来を阻害したのが、学校のなかにあるとしたら。そのやるせなさは、どこにぶつけていいかわからないほどです。でも、「前に進まないといけない」「置いていかれてはならない」と考えます。その先にある希望が、通信制高校への進学なのです。
「学ぶため」の進学ではなく、「高校生になるため」「高卒学歴(社会信用)を得るため」を動機にした進学者(主に保護者の意向かもしれません。)が《抜け穴》として期待(ニーズ)した高校選びです。それは不登校を理由とする長期欠席者の増加に伴い、数十年に渡り、確実に増えたニーズでしょう。
さらに近年でいえば、教育機会確保法で学校復帰を目的としないこととなりましたが、代わりに《社会的自立》のキーワードが盛り込まれました。社会的自立とはなんでしょうか。端的に解釈される事実は、「社会に出ること」「仕事に就くこと」「納税すること」などがイメージとして頭に浮かぶと思います。通常のルートで高校進学した生徒と18歳の時点で同じレールに戻るように努めることを暗に指しています。つまり「学校復帰」が年齢をスライドして、18歳時点で「社会復帰をしなさい」と先延ばしにされたようなものだ、というのはそういう意味です。
そういった「社会的自立」を実現するべく、中学校卒業時から間をおかずに高校進学を決定する動機はより強固になったでしょうし、それに応える傾向が、教育産業、教育市場という視点で通信制高校の運営側に強まったといえるでしょう。
そして、この見直しの機会は、規制緩和政策を始まりとした多様化した通信制高校の存在の、玉石混淆を洗い出す方針ではないかと見えます。『玉』だとジャッジするのは「国」になった、ということです。
「なった」と強調するのは、「そうならない」現実が実現する可能性もあったからです。
「市民が選ぶ」「市民が育てる」「市民のため」の学校です。
先に5つほどの「通信制高校を選ぶ理由」を挙げましたが、これらの理由には「不登校の受け皿」となる【全日制高校の代替】として期待する面と、高等教育を受ける多様なまなびの機会のひとつとなる【オルタナティブ教育】として期待する面が混在しています。
オルタナティブ教育と公教育の干渉制度のひな型
この見直しの検討は、通信制高校、とりわけ広域通信制のサテライト施設がとりあげられ、その監査制度の整備が注目されるということではないかとその可能性が考えられます。
通信制高校に期待される【全日制高校の代替】と【オルタナティブ教育】の側面は、別々の面でありながら、いくつかの共通項が見出されます。
これらは制度によって成されるものです。その制度設計は、少なからず民意が反映されます。【代替】としての、社会で不利益を被らない期待を反映するのであれば、それは社会の現在の構造を肯定することになります。代替であるのならば、それは公教育の多様な在り方を示します。行政が管理する、行政が教育内容を決定する、国の権利を主体とする教育制度です。国の権利とは何か。国が期待する人材育成のための教育であり、国を支える国民を育てる場を作る、ということです。
対して、【オルタナティブ教育】としての期待は、国の期待や国が指導する教育の役割を越えて、「市民」が人間として学び成長する機会を、市民の意思決定によりつくる、ということです。その主体は市民にあります。民主主義精神にのっとり、市民の生きる権利、人間らしく生きる権利を追求する態度のことだと考えます。
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