ずるずるとひきずる、たわけ。


「あの人のこと好きなんじゃないの?」

居酒屋のカウンターで先輩が私に言った。

「まさか。皆さんのことも好きですよ、同じくらい。」

誤魔化すのが自分でも驚くぐらい下手だった。


2021年しっかりと片思いが終わった訳だが、あの人の恋人について詳細を知らなかった。
何度か聞き出そうとしてみたが、誤魔化してうやむやにされていた。

常に直球で思ったことをすぐに口に出して嘘が下手な人だと思っていたから、ここまで言わないとは思わなかった。
ある程度親しくなったと思っていたのは私だけだったか、とさらに失恋の傷をえぐられていた。

そんなある日、
私、先輩、あの人の3人の瞬間があった。

「恋人とはどうやって出会ったんですか」

先輩がなんの脈絡もなく突然聞いた。

「えー、紹介」

あっさり言った。なんだよ。私が聞いても言わなかったくせに。

さらに先輩は続ける。

「いつ付き合ったんですか」

「29日」

店に来た日。私が絶望した日だ。

新年を最悪なタイミングで迎えた人間もいれば、最高にハッピーなタイミングで迎えた人間もいたようだ。

どうやら相手は年上らしい。
私は今まで歳の差について何も思ったことは無いが、この瞬間だけはなぜそんな相手を選んだのか疑問に、いや恨めしく思った。

歳の差なんて最も乗り越えられない問題を叩きつけてくるのだからとことん気持ちが沈んでいく。

最近はやっとマシになってきたと思ったところに先輩がそんな質問をするものだからまた傷が開いた。

別の日。
飲みに行きましょうと先輩を誘い、最近通っている飲み屋のカウンターで飲むことにした。

職場の人たちの話をひとしきりした後、あの人の話になった。

最近恋人ができて楽しそうなこと、私も先輩もあの人には仕事で振り回されていること、そして私がどう思っているかも。

「何度かあの人のこと好きなんじゃないかなって思ってたよ」

酔いが覚めた。
そして私の下手な言い訳が始まる。

兄みたいな感じで、からかわれているだけですよ。あの人も妹がいるから雑なんですよ、扱いが。

自分で言っているはずなのに、ぬるぬるとすべっていく感じがわかった。

「ふーん、奪うとしたら応援するけどね」

先輩の口角が上がる。
応援って…完全に面白がっている。私も先輩の立場なら同じことを言っていたはずだ。

終電数本前に乗り、私が先におりるので挨拶をして電車を見送った。

改札を出ると友達に電話をかけた。その友達はおおかたの事情を知っており、私はこの日起きた話をさも他人話のように笑い話にした。

ひとしきり話した後は知らない間に家に着き、そのまま布団に潜り込んでいたらしい。耳にはワイヤレスイヤホンがそのままで

「充電してください」
その女性の声で飛び起きる。

携帯を確認すると
おやすみ。とメッセージが来ていた。

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