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12二人で食事を

いつもこの店に来ると彼女は赤ワインを注文する。ボクはクルマだから色の同じクランベリージュースを注文する。今日のピアニストはMaiさん。どんな女性を連れてきても見て見ぬ振りをしてくれるやさしい方だ。流れる曲は「Greensleeves(グリーンスリーブス)」彼女の手にかかるとどんな曲も心に染み渡る調べになる。

トシはイっているがカワイイという表現が似合うヒトだった。勤め先ではしっかり者で通っていて後輩の男女問わず相談に乗ってくれるのでみんなから「お母さん」と呼ばれている。

でも、しっかり者に見えてボクと二人の時のワキはかなり甘い。コッチは独身だから良いけどハラハラするくらいだ。

「ウチの近くに美味しい日本料理のお店があるからそこで晩御飯食べよ」

待て待て。ウチの近くってアナタの家族にも近いというコトだよね。

「そうよね。でも仕事の付き合いってだって言ったら問題はないでしょ」

そうはいうけど近所だからヤバくないか?

「手を握っているとかキスしているわけでもないでしょ。一緒にゴハン食べてるだけだよ。だから誰かに会っても大丈夫」

いや、もちろんそうなんだが・・・

「そりゃあ子どもが小さい頃は子供会とかでご近所の付合いもあったけど、いまはご覧の通り毎日遅くまで仕事しているでしょ。だからほとんど近所付合いは無いのよ」

バカな男ほど「オレ奥さんいるけどカノジョもいるんだぜー」なんて酒の席で吹聴しまくるが、ボクはそんな事は一切しない。帰る家のある相手の生活を崩したくないし、万が一バレた時には修羅場が待っている。好きな女性にそんな思いはさせたくない。

ただ、これはボクの性格なのだが、自分自身が一人の女にそこまでのめり込まないという冷たい男だからかもしれない。でも、彼女はそんなボクが大切にしたいと思っているヒトだ。だからいつも以上に慎重に付き合っているのに彼女は無防備すぎるから困る。

カラになったワイングラスを軽く振りながら、あどけない笑顔で

「バレやしないから美味しいゴハン食べよ」

って。

バレたら最悪なんだよ。アナタのすべてを失わないようにボクは努力しているんだけど・・・わかって欲しいんだけどなぁ・・・

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