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新曲「Free」 周庭氏らの逮捕に抗議する

七尾旅人
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昨年、中国に呼んでもらってようやくツアーすることが出来たが、2、3年前のオファーでは事前の歌詞チェックで検閲に引っかかり、残念ながら叶わなかった。

入国してからも油断はできない。伝達したセットリストと違う曲を本番で歌ったり、ステージから飛び降りてクラウドサーフしたりすれば、たとえビョークのようなポップスターであっても即座にライブ中断、渡航禁止などの状況に陥ってしまうと聞いていたので、細心の注意を払った。まあ結局「少年兵ギラン」とか演りたい曲をしっかり演ってしまったが、300〜500キャパ程度の会場でも私服警官は来るとのことで、相応の緊張感があった。

北京、上海、杭州などを回ることが出来たが、お客さんたちはとても優しく、暖かく、開けた人々で、メディア上で喧伝されるイメージとは乖離していた。10代の頃のデビュー曲「八月」を皆が日本語でフルコーラス歌ってくれた時、涙が出るほど嬉しかった。日本でもそんなことは一度も起きたことがなかったので。サイン会で一人一人とやりとりして、彼らのことが兄弟のように愛しくなった。

中国の友人たちは、香港での状況をどう見ているのだろうか。

アヘン戦争の時代まで遡れば、英国が清王朝に対して行った常軌を逸した搾取と暴力の果てに香港という特殊な磁場が成立していったプロセスには運命の奇妙さも感じるが、
約180年後のその街に、澄んだ目をした若者たちが居て、なんとか自らの声で語ろうとし続けてきたことは、
あまりにも尊いことだったと僕は思う。

日本でも現政権によって民主主義が危険にさらされているが、
これほどの緊迫感の中で市民が立場表明を強いられる状況を間近で見るのはやはりショッキングなことだ。
まだ少女のようなあどけなさを残しながら聡明な瞳の輝きが印象的なアグネス・チョウこと周庭氏、
民主派メディア「蘋果日報(アップル・デイリー)」の創業者、ジミー・ライ氏など、
10名が逮捕され、最悪の場合、無期刑もありうる。

危惧された以上の速度で、人権弾圧が進んでいる。


二度と中国ツアーに行けなくなり、友人たちと再会できないかも知れない。
それはあまりに辛いことだが、ここに抗議を表明しておきます。


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Free Agnes
人々を打ちのめす銃が
次の朝には降ろされるように
Free Agnes

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◉追記 8/12


昨夜の曲「Free」をアップした直後にkan sanoくんがピアノを弾き足したものを送ってくれたので紹介。
https://www.dropbox.com/s/a9465inhr7cfgh5/free%20-with%20Kan%20sano.wav?dl=0

周庭さんの逮捕を知った時、頭の中で女性の混声によるメロディが鳴ったのだけど、一刻も早く注意喚起することが重要だと思ったのでとりあえず1人で携帯にメモ録音してみたのが昨日の音源です。

周庭さんやジミー・ライさんは無事に保釈されたけれど訴追の可能性もあるし、まだまだ拘束されている人、これから不当逮捕される人があとを絶たないのではと思われる。
当局によってこうしたやり方が続けられれば、人々の願いはさらに抑圧され、萎縮を余儀なくされるだろう。

状況は全く改善されていない。

音源では「Free Agnes」と歌っているわけだけど、この歌詞はFreeの直後に、誰の名前でも入り得る曲だと思う。

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