呼吸器シンガー、相羽崇巨くんとの、これから。

筋ジストロフィーの詩人、呼吸器シンガー、相羽崇巨くんが12月20日に、29歳で逝去されました。

元々は朗読詩人だった彼との出会いは、2019年、愛知県の岡崎で開催されたフェス会場。

演奏中、客席に、とても目を引く青年を見つけました。電動車椅子に身体を預け、呼吸器によって命を繋ぎながらも、誰より瞳を輝かせ音楽を楽しむその姿に惹かれて声をかけて以来、彼は僕にとってかけがえのない友達になりました。

彼の素晴らしい詩と朗読のパフォーマンスに心を揺さぶられ、「相羽くん、歌も作ってみたら?」と薦めてからは、水を得た魚のように名曲を連発して僕らを驚かせました。

指先しか動かせない彼に、僕はいちばんシンプルな作曲方法を伝えました。それは僕が不登校児だった子供時代から続けている、鼻歌を応用した素朴な作り方でしたが、相羽くんにはフィットしたみたいで、彼の歌には最初からすべてが詰まっていました。彼の喜び、哀しみ、輝き、そのすべてが。

相羽崇巨が遺した2枚の傑作アルバム
「花笑みの日々」と「朱夏の約束」は、
Spotifyなどのサブスクリプションでも聴くことが出来ますので、ぜひ彼のソングライティングに触れてみてください。

いつも笑顔をたやさずに誰かを思いやる、優しい男でしたが、呼吸器をつけた状態で歌を追求することは、けして容易なことではなかったと思います。
音楽を始めて以来、彼は「呼吸器シンガー」という通り名を好んで使うようになりました。
これはバンド形態で演奏を行う際の名前、オミブレスにも引き継がれ、朗読や鼻歌から始まった、彼の息(breath)を巡る闘いを鮮烈に印象づけました。

クリスマスに行われたお通夜の翌日、告別式で、相羽くんの言葉にインスパイアされて作曲した「if you just smile」と共に、初めて彼の歌をカバーして歌いました。

「ねむたいな」「愛の冷やし中華」「あめもよう」

相羽くんの命への眼差しが焼き付けられた、珠玉の名曲たち。
筋疾患によって凪いでゆく彼の身体から紡がれたメロディラインを、実際に演奏し、自分の気道と声帯によって辿ることで、初めて理解できたことが、たくさんあります。
彼が遺したすべての歌を覚え、歌い継いでいくことを決心しました。

今まで生きて来て、こんなに悲しいクリスマスはなかったけれど、相羽くんが最後に遺した二つのツイートは、明日への希望に満ちていて、呼吸器シンガーの優しく楽しげな息遣いが伝わってくるかのようです。

亡くなった際も、11月に名古屋の彼の家で僕と話し合った新しい夢について、楽しそうに語っている最中だったと聞きました。彼は笑顔のまま、眠るように息を引き取ったと。

筋ジストロフィーが少しずつ心肺の筋肉組織にまで進行していたそうですが、僕らにはもっともっと、たくさんの時間が残されているものだと思い込んでいました。後悔は尽きません。

どうして彼が、僕のことを信じて、慕ってくれて、歌の世界に来てくれたのか、わからないですが、自分はまだ彼に対して、果たすべき約束を、果たせていないと、感じています。

僕はこれからも、彼との共同作業を続けていくつもりです。

その成果をいずれ、作品の形で、お見せできたらと思います。

筋ジストロフィーに抗って歌い続ける、世界でたった1人の呼吸器シンガー、相羽崇巨に、これからも、ご注目ください。



◉LIFE HOUSE vol.8 相羽くんとの対話 2020.5
https://note.com/tavito/n/n4bc57142b6aa

◉君がいなくなった世界で 2023.12
https://note.com/tavito/n/n4ac006739123

◉相羽くんの音楽

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