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カルパッチョ日記2 〜魔女の実験〜

3月23日(土)
スズキの昆布締めが忘れられない私は、カルパッチョ及び昆布締めのレシピを漁り始めた。

レシピを調べるとき、私はいつも3つ4つ探し出して、見比べる。一時的なマイブームのためだけに、わざわざ非日常的な材料を買いたくない。だからレシピを見比べて、必要な材料、なくてもいい材料をあぶり出す。

「つまりこういうことだな」と思えるまでシンプル化させたら、あとは自己流で作ってしまうことがほとんどだ。

一度も食べたことのない料理ならレシピどおりに作るかもしれないが、今回はすでに美味しさを体験している。レシピどおりに作ることは重要ではない。

あのときのスズキの昆布締めの美味しさや食感を思いながら、私好みのカルパッチョをめざす。

スーパーに材料を買いに出かけると、時期が悪いのか白身魚の刺身はほとんど売られていなかった。

鯛刺しを1パックゲット。これはカルパッチョには最適だ。――が、5切れしか入っていない。今夜作る2人分には全然足りない。
しょうがないので、苦し紛れでカレイだかヒラメだかのエンガワも購入。美味しくなるか実験してみよう。

今回は昆布締めはしない。調味料を和えるだけにする。普段やらないことのために、わざわざ買うことはしたくない。

昆布締めの代わりに、自己流で、鯛とエンガワに軽く塩をまぶしてみる。これで身がプリっと引き締まってくれたらいいな、と。

カルパッチョに使う野菜は、ベビーリーフ、黄色のパプリカ、ミニトマトを用意。彩りを意識した。調味料は、味ぽんとオリーブ油をベースにして、あとは家にあるもので適当に味を調えた。

参考にした複数のレシピには、レモン汁が挙げられていたが、ここはあえて味ぽんにする。我が家の口には、レモンより味ぽんの方が合うと思ったから。

食べてみた感想。――悪くない。美味しくできた。けど、全体的に味がぼやけたかな。
あと鯛刺しは良いが、エンガワがちょっと生臭くて合わない。

次回はニンニクや生姜を足してみよう。入れた方が絶対に美味しくなると思う。

  *

4月6日(土)
以前録画した番組を見ていたら、辻仁成さんが昆布締めに昆布茶を使っていると話していて、「これだ!」と早速スーパーへ。

昆布茶は普段我が家では使わないが、これは昆布締めだけでなく、普段の調味料としても使い勝手が良さそうだと安易に想像できたから、「買い」である。

鯛やスズキはまたしても入手できなかったので、今回はビンチョウマグロの刺身で実験。昆布茶を刺身へまぶし、ラップして冷蔵庫へ。愛犬とお散歩してる間に、締める。

前回はオリーブ油だったが、今回はゴマ油を使って和風にしてみる(スペインはどこいった)。ニンニクと生姜はまだ畑にないので、冷蔵庫にあったチューブのを使用。

食べてみた感想。――美味い!
うん、ニンニクと生姜は大正解だ。味にメリハリがついた。昆布茶からのダシ効果もあるだろう。ビンチョウもプリっと仕上がって、美味である。
昆布茶サマサマ。ありがとう辻さん。

母からも美味しいとの感想をもらえたが、
「ニンニクもっと入れていい。気付かなかった」
ニンニク好きには足りなかったようだ。

  *

4月11日(木)
大きな本屋さんで酒のつまみ系の本を探す。もちろんスペインバル熱が原動力なので、日本の居酒屋っぽいものは外す。

料理系の棚の前に立ち、差してある本のタイトルをザーッと目で追っていく。「これだ!」という本は、すぐにわかった。
こういうときって光って見えたとか、本と目が合ったとか、いろいろ表現があるけど、とにかく「これだ!」ってわかってしまうものだ。

本を傷つけないよう、棚からそっと抜く。
表紙に手をおいて囁く。
「よろしくお願いします」

この本の紙の感触、好き。
料理の写真の感じ、好き。
著者の方、存じ上げないのだけど、キッチンや食卓でのお姿、好印象。

何より、開いてすぐにカルパッチョが出てきた。しかも3品も。

ほらね、これですよ。
この本ですよ。

他のページのレシピにもザザッと目を通す。
そのうちに、紙をめくる手が止まる。いつのまにか、読み込んでいる。

つまり相性が良いのだ。

使う材料、調理の仕方。
一部の材料はテキトーに代用するとして……
うん、間違いない。これは相性が良い。
何より一番の目的である「バルの雰囲気」をまとっている(あくまで私が抱くイメージだけど)。

「一緒に帰ろう」
胸にそっと抱き、レジへと向かった。

早速カルパッチョを作りたいところだが、今日はやめておく。毎週のようにカルパッチョを作ったし、今週は親戚が分散して泊まりに来るため、刺身が続く。明日も刺身だ。

私はハマると同じものばかり食べるタイプだが、母は飽き性。母を飽きさせてはカルパッチョの実験を続けられないので、今回は手を引く。

代わりに今日買った本を参考に、カルパッチョ以外の酒のつまみ料理を2品こしらえた。
母、大喜び。
私もナンチャッテバル気分を楽しめた。

  *

4月23日(火)
店を替えた。鯛刺しがあった!
ようやくじゅうぶんな量をゲット。

よくよく見たら、千切り大根とスライスした玉ネギが敷かれた、カルパッチョセットだった。カルパッチョソースも添付されている。
せっかくなのでこのソースも使わせてもらおう。原材料表示を見て、どんな調味料が入っているかを確認。あー、やっぱレモン汁使うんだね。

鯛と野菜を分けるのが面倒なので、ボウルにガバッと全部入れて、昆布茶をちょっと多めに振り、野菜ごと絡める。ラップを密着させて冷蔵庫へ。
昆布茶で締めている間に、愛犬とお散歩へ。

野菜は、赤と黄色のパプリカ。あとベビーリーフ。火を使わなくていいから楽だ。

調味料は、味ぽんとオリーブ油ベースで、前回使ったチューブのニンニクと生姜も使用。今回はしっかり多めに出した。あと黒コショウも軽く振ってみたり。

「今日のは一番美味しかったね」
母から高評価をいただく。
いろんなものが入ったおかげか。

ただ、ちょっと味が濃いかな、というのが反省点。「しょっぱい」というのではない。全体的に、味が濃い。
美味しいのだが、美味しいまま味が濃い、といった感じ。

今度は引き算を覚えよう。

  *

4月27日(土)
買い物へ行かずに、ありものでカルパッチョを作ることに。台所には母が畑からとってきた、春菊とキャベツがどっさり。魚はないので、今回はチーズを使うことにした。それをカルパッチョと呼んでいいかはわからない。

冷蔵庫には常にとろけるスライスチーズがある。これをトースターでパリパリに焼いて、砕いて使ってみる。かけらをひとつ、つまみ食い。うん、しょっぱい。

味付けに使ったのは、昆布茶、味ぽん、チューブ生姜、黒コショウ。あと塩昆布があったので、それも入れる。塩分取りすぎか。
外出前の母を気遣い、今回ニンニクは不使用。

美味しくできたが、やはりちょっと、しょっぱかった。ダシが利いているから尖った塩味ではないが。

ゴマ油やオリーブ油を入れるのをすっかり忘れていたが、なくても美味しい。もはや焼きチーズ入りのおひたしである。

  *

私の古い友人から言われたことがある。
和珪わけいちゃんが料理するイメージってないな。料理じゃなくて、魔女がなんか作ってるイメージだわ」
わからんでもない。

実験に実験を重ね、「私の味」は概ね確立した。
ベースは味ぽん。これに和風ならゴマ油、洋風を意識するならオリーブ油。そしてニンニクと生姜。

あとはテキトーに。
酸味が足りなければ酢を。
味を引き締めたければ黒コショウとか。
うちにあるものでテキトーに。

よっしゃ気が済んだ。
良い本にも出会えたことだし。
これで私のカルパッチョ実験したい熱も、ようやく落ち着くだろう。

ところで今辞書で調べて知ったけど。
カルパッチョって、イタリア料理なんだな。


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