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生きる力

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戻ってきた実家での田舎暮らし。里山の風景。染みるご近所付き合い。親類のありがたみ。母から学ぶ農作業。できなくてもいい。知っておきたい。
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#ご近所さん

冬至過ぎの朝

午前5時50分。 冬至はとうに過ぎたというのに。 まだ夜は明けず、たっぷり真っ暗闇。 まだ眠そうな10歳の愛犬を連れて、散歩コースの畑へ出る。ここまで来れば、愛犬もウキウキと軽い足取り。 かと思えば今度は枯色の草むらへ鼻を押し付け、タヌキの残り香でも追っているのか。 愛犬を待つ間、私は視線を上げた。 ご近所さんちを見る。 これがすっかり癖になった。 庭のセンサーライトがついた。 あちらも今から出発らしい。 ほどなく、庭から小さな明かりが、トントントンとおりてきた。目

ご近所さんは草焼き職人

朝の散歩、愛犬と畑を歩く。照りつける太陽に愛犬がすぐさまUターンしていた夏はすぎ、今はもっともっとと、走りたがる。空は高く、風が涼しい。稲穂はいつのまにか黄金色に変わり、愛犬と私を繋ぐリードにトンボがとまる。 今日は草焼きをしようかな。強すぎない風、夜からは雨、この前刈った草はすっかり乾いている。うん、草焼きしよう。――最近はそんなことを考えながら散歩している。 夏に草刈り機デビューしてから毎日のように腕を磨き、母にも上手だと褒められるようになった。 「今日は私、何しよう

楽園は小さくなり、そして広がる

父が救急搬送された翌日。付き添っていた母が疲れきった顔で帰ってきたのは、朝の6時すぎだった。父が病棟に入ったときにはすでに夜中の1時半で、コロナ禍のためタクシーは営業終了。母は守衛さんに相談して病院の待合室で仮眠し、タクシーが動き出す朝6時にようやく帰路に着いたのだった。 自宅に到着した母が畑の農業用ハウスに向かうと、すでに先客――畑と田んぼを越えた先に住む、ご近所さんがいた。 「ハウス開いてなかったから、まだ病院にいたんだと思って。今日暑いし、ハウス開けないと苗っこ焼ける