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生きる力

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戻ってきた実家での田舎暮らし。里山の風景。染みるご近所付き合い。親類のありがたみ。母から学ぶ農作業。できなくてもいい。知っておきたい。
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#ご近所付き合い

イトコに響いた、電話番号一覧を壁に貼る理由

昨年コロナが落ち着いたとき、隣県に住む30代のイトコ姉弟が父にお線香を上げに来てくれた。父との思い出や近況をひととおり話したあと、イトコたち――特に親と住んでいる弟の方が、私と母にいろいろと相談をしてきた。 今後親に何かあったとき、まず誰に連絡すべきか、お墓は新しく建てるのか、それとも実家のお墓に入るのか、などなど。子供の頃のイメージしかなかったが、彼らもそういうことを考える世代になったのだ。 帰り際、姉の方が廊下の壁を指さした。そこには電話番号を書き連ねた、大きな紙が貼

ご近所さんは草焼き職人

朝の散歩、愛犬と畑を歩く。照りつける太陽に愛犬がすぐさまUターンしていた夏はすぎ、今はもっともっとと、走りたがる。空は高く、風が涼しい。稲穂はいつのまにか黄金色に変わり、愛犬と私を繋ぐリードにトンボがとまる。 今日は草焼きをしようかな。強すぎない風、夜からは雨、この前刈った草はすっかり乾いている。うん、草焼きしよう。――最近はそんなことを考えながら散歩している。 夏に草刈り機デビューしてから毎日のように腕を磨き、母にも上手だと褒められるようになった。 「今日は私、何しよう

楽園は小さくなり、そして広がる

父が救急搬送された翌日。付き添っていた母が疲れきった顔で帰ってきたのは、朝の6時すぎだった。父が病棟に入ったときにはすでに夜中の1時半で、コロナ禍のためタクシーは営業終了。母は守衛さんに相談して病院の待合室で仮眠し、タクシーが動き出す朝6時にようやく帰路に着いたのだった。 自宅に到着した母が畑の農業用ハウスに向かうと、すでに先客――畑と田んぼを越えた先に住む、ご近所さんがいた。 「ハウス開いてなかったから、まだ病院にいたんだと思って。今日暑いし、ハウス開けないと苗っこ焼ける