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一話完結小説/創作日記

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一話完結小説の本棚。創作活動についてや、作品にまつわる話も。
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#オリジナル短編小説

【小説】短編集サクラサク(4/4) 1年後

短編集サクラサク 4.1年後 息子が会社を辞めると電話で言ってきたのは、入社してからもうすぐ1年が経とうという頃である。 高校卒業前に車の免許だけは取っておけという私の言いつけを守らず、自動車学校に行きもしなかった。 部活もいつの間にか行かなくなっていた。 頭の出来は「中の下」か「下の上」。 教科によっては「下の下」である。 当然親戚からの評価も、低い。 唯一胸を張れるのは、そんな息子が高校3年生になって急に成績を上げ、大学まで行けたことである。 だが(特に私に対

【小説】短編集サクラサク(3/4) らしくない

短編集サクラサク 3.らしくない パソコンのキーボードを叩く音が響くオフィス。 そろそろ休憩でもしようかという頃、男の明るい声が聞こえてきた。 「じゃあ何か買ってきますよ。俺も今、コーヒー買ってこようと思ってたところなんで」 部署で一番若い木下が、同僚たちの飲み物の注文を取り始めた。 木下は俺の二個下で、同じ地元の後輩でもある。昔からよく気がつく性格で、あれこれと人の世話を焼くのが好きだった。 飲み会でも一番下座へ座り、率先して注文を取ったり、空いた皿をまとめたりと、

【小説】短編集サクラサク(2/4) Eの改造

短編集サクラサク 2.Eの改造 今度の仕事は事務職。 期間は3ヶ月。 さて、職場はどんな感じかな。 担当部署での朝礼で、課長がよく通る声で私を紹介する。 「今日から配属になった川村景子さんだ。3ヶ月だけだが、みんな色々教えてあげて」 「川村です。今日からよろしくお願いします」 月並だけど一発目のあいさつというのは、やっぱり大事だと思う。明るい表情と、聞き取りやすい声。これだけでも意識すれば、直後のなじみ具合が格段に違うものだ。 あちらこちらから明るい声で、よろしく、