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一話完結小説/創作日記

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一話完結小説の本棚。創作活動についてや、作品にまつわる話も。
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#ほっこり

【一話完結】ワラビアンナイト 西の釜師

異世界に暮らす人々の日常を綴った短い物語たち。一話完結です。 ワラビアンナイト 西の釜師 東から西への長い旅。 男の髪とヒゲは旅の間に伸び、白いものもまじり始めた。 目的がある旅ではない。 ただ祖国にしがみつく理由がなくなっただけのこと。 やがてたどり着いた地は、文化も、そこに住む人々の容姿も、祖国のそれとはまるで違っていた。 それなのに、なぜだ。 この地に、祖国の技がたしかに息づいている。 男の祖国は、優れた鉄器と、それを作る釜師がいることで名を馳せていた。その

【小説】短編集サクラサク(4/4) 1年後

短編集サクラサク 4.1年後 息子が会社を辞めると電話で言ってきたのは、入社してからもうすぐ1年が経とうという頃である。 高校卒業前に車の免許だけは取っておけという私の言いつけを守らず、自動車学校に行きもしなかった。 部活もいつの間にか行かなくなっていた。 頭の出来は「中の下」か「下の上」。 教科によっては「下の下」である。 当然親戚からの評価も、低い。 唯一胸を張れるのは、そんな息子が高校3年生になって急に成績を上げ、大学まで行けたことである。 だが(特に私に対

【小説】短編集サクラサク(1/4) おりこうカード

何年か前に書いたものですが。 春なので、春っぽい小説を。 短編集サクラサク 1.おりこうカード 引越しの準備をしていたら、ハガキサイズのカードを見つけた。 カードいっぱいのマス目には、花丸のスタンプがずらりと並んでいる。ラジオ体操のカード……とも違う。 ひっくり返すと、ひらがなで書かれた俺の名前と、「おりこうカード」というタイトルが目に飛び込んできた。 記憶の湖面に、かすかな波紋が広がった。 ひらがなで書かれた「さくらぐみ」―― そうだ、これはたしか保育園の年長のと