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いつかの話

「大切な誰かを思い出す」

小さいバーの隅にあるテレビから聞こえてきた。なんてありきたりなキャッチコピーだろうか。

大切な人なんてできるわけないじゃない、とひねくれ者の私は鼻で笑う。
生まれてこのかた、親も友人も大切に思ったことがない。ましてや恋人などいたこともなく。人間関係のすべては損得で選んできた。

悲しい生きかただと哀れまれても、それでいいと思っていた。それでも「大切な誰かを思い出す」という言葉に惹かれてしまうのは、自分にもいつか「大切な誰か」が現れるのかもしれないという淡い期待。

「バカらし、飲みすぎたわ……」

お店の人には悪いけど、少しだけ寝ちゃおうかな。
瞼を閉じようとしたその時。

「すみません、この子にお水もらえますか?」

霞んで見えた彼女こそ、私を変えた大切な人。


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