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フリをする

「奇遇ね、こんなところで再会するなんて。ふふ、そりゃ笑うわよ、あなたがこの街にいると思わなかったんだもの」

そう笑う彼女は一つ一つの仕草が上品で、少しあざとい。まあ、そのあざとさは無意識のようだけれど。
芋っぽさの抜けない私が六本木という街をフラつくなんて、彼女からしたら想像できなかったんだろう。

「遊びにくらい来るっつーの」

とはいえ、彼女のようにキラキラしたブランド品は身につけられないしお育ちもいいわけじゃないから、場違いなのかもしれない。

「また会いましょう。今度は偶然じゃなくて、きちんとランチやディナーの約束をして、ね?」

ふわりと笑いながらまたね、と去っていく彼女。

偶然なんかじゃない。
ここに来ればあなたに会えると思った、なんて言ったら引かれるだろうな。

「今度は、ちゃんとデートに誘おうっと」

あなたに会えたし、私はもうここに用はない。
ーーもう帰ろう。

「……くすっ」

振り返った彼女は「健気ね」と笑っていた。


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