tatsuzi
跛行する日々の中で、書いた詩を集めました。
短編小説です。
ひとり、ため息をついてみた。 ワケもなく緊張してしまう身体をほぐそうと。 せめて綺麗な文字を書きたかったのに、 ペン先から生まれた文字は歪んで醜かった。 なにも、上手く言うことなんか、出来なかった。 僕は、諦めて笑ってみた。 僕の饒舌が、いつも僕を黙らせるから。
アスファルトが、 冷たく固く雨を弾き、僕の足を拒絶する。 どこにも行けないまま、 風に吹かれる砂のように、崩れるように消え去るだろう。 或いは、日に乾く水たまりのように、 いつも、時間だけが残り、 僕らの息づかいすら忘れ去られる。 もし、 いまはまだ、時間が空気のようなものでも、 地層のように、いつか目に見えるようになるなら、 その時読み解いて欲しい。 僕らの願いを。 時間に刻まれた証を。 愛という幻に右往左往した僕たちが、 みっともないまでに必死に生きた証
散らかっていく部屋の中に 僕のため息が加わる。 「自分に始まり、自分に終る」 そんな生き方など、 意味が無いような気がしていて。 読みさしの本や、脱ぎ捨てた服、 メガネや、シーツや、やめた煙草。 そんなモノたちみたいだ。
傷ついて、流した涙に何を知ろう? 傷ついて、流れた血液に何を語らせる? 寂しい、とふるえるくちびるにどんな「うた」を? きっと、傷ついて流した涙の、その熱さを、 流れた血液の、その熱さを、きみは、知る。 だから、寂しいとふるえる君に、 僕は、ぬくもりを願う。
世界から離れてしまいそう。 身体が、うきあがりそうなのよ。 と、 彼女は言う。 もう、すでに浮きあがっているのに。 あなたの手に掴まりたいのよ。 と、 僕の手を取る。 風が強くて自信がないけど、 大きな樹に体をくくりつけてみよう。 長い紐に巻かれて。 腰に錘も着けてね。 そうして僕は呟く。 寄らば大樹のなんとやら。 ふわふわするわ。 全然ダメじゃない。 しっかりしてよ。 彼女は言う。 髪をなびかせ、浮き上がりながら。 そこからじゃ、 よく見えないかも知れないけど、 そ
空腹を感じていないのに、 食料を買ってしまうとき、 僕は何に失敗しているのだろうか。 全然大丈夫じゃない時に、 笑って、大丈夫と、答えてしまうとき、 僕は何を隠しているのだろうか。 頭の中がうるさいので、 突き動かされるように ペンを走らせる夜に、 僕は誰と会話したいのだろうか。 思い出したくないことを、 夜中から明け方まで書く時に、 僕は何を殺しているのだろうか。 夜があけて、朝が来た。 朝が来たから夜が払われた。 どっちだっていいことだが、 とにかく僕たちは挨拶
陽射しの明るさより、 その影の濃さに気を取られている。 ボクが消してしまったキミの未来を 償う術もなく生きて わけのわからない文字を 連ねるのみだ。 それは手紙か? 罪滅ぼしの。 勝手に名付けたキミの名を呼ぶ。 「祈り」と名づけた静止画/記憶がある。 仏壇に祈る母 母を見るボク。 白い廊下に光が射しているよ。 キミの色だ。 色は光だ。 でも、有り体に言って、 僕にとって、 それはまるで記憶の美化ではないか。 いや、捏造だ。 美しさからはほど遠い、 色を重ねる試み。
波がきて、 ひいていく、 ただその淡いに、 きみがわらう。 そら。 あおい。海よりあおい、そら。 風にあおが揺れるから、と。 それが可笑しいから、と。 きみが笑うから、 ぼくは、足の痛みを無視して、 きみの、横を、 あるく。
世界があって、僕がいて、 僕がいまいるこの世界が、なくなったことを想像したら、 悲しくなった。 この世界が、醜いのは、僕が吹き出物みたいに世界にしがみついているからで、 だから、 僕が居なくなった世界を想像したら、世界はとても美しくて、 静寂も、喧噪も、歴史も、嘘も、 何にもなくなった、世界が、 世界だけがある世界が、僕がいない、世界が、 美しくて、 僕は、余計者なんだと、知った。 いつもと違う、 同じ 夕暮れのこと。
怒りと痛みと、 シラケた気持ちと、死にたい熱望と、 理不尽と、不眠に 真っ黒に塗りつぶされた日常の中で、 風と、花と、星が、 生命の官能を呼び覚ますから、 幼い頃の、僕のひだまりで、 夢を食べて生きた幼い頃の僕の日だまりで、 あのひだまりで、 夢に溶けてしまえばよかった。 幼い僕自身に 哀しみを知らなかったあの時に、 はやく、すぐに、躊躇わず、迷わず、 息の根を止めてあげられるよ、現在(いま)の僕なら。 抱擁のなかで。
肉体が精神の乗り物だと 言うヤツがいて、 肉体は内面の外化だと 言うヤツもいる。 何でも安易に信じてしまう罰に 僕は自分の 肉体が いつまで、自らの精神を煩わせるのか、訝しむ。 胎内に置き忘れたカカトを、 恋い焦がれて懐かしむが故に、 僕の精神が、懦弱だと、 きみは早とちりをする。 完全や不完全を言っているんじゃ無いさ。 元来の所有権を主張しているだけだ。 きみにはその違いが見えないか。 自由でありたいと云うのは、 例えば、この肉体から。 例
しない。 何もしない。 したい事以外、しない。 やりたいことは、 と きかれても、さあ困ってしまう。 したくないんだ。 しない、やらない、お断り。 したい、やりたい、喜んで。 は前向き、自発的、仕掛けた生き方 だとして、 そうだとして、 「やりたくない」は受け身かね? 「めんどくさい」は無意味かね? しない、できない、やりたくない。 できないやらない絶対に。 明瞭に。 断じて!!
世界の美しさなぞ歌う前に 世界の有り様なぞ言う前に、 お前が握りしめている拳を開いて見せよ。 誰も、お前の事など信じやしない。 自らの生活を嘆く前に 自ら招いた不幸にとどめを射される前に お前は自らの言葉を、 自らの耳で聴くのだから、 神など居なくても、 居直りや、自己欺瞞などせずとも お前はお前を裁くのだから、 誰も何も言わないままに 誰も居ない部屋で、 どことも知れぬ時代の誰とも分からぬ自分のままで 縊れて果てる自分を見るのだ。 世界がどんな
敗残の身に刺さる 禍事の夕陽が 一夜にして塵芥と空虚に満たされた街を照らしていた。 打ちのめされろと呪ったのは 確かに僕だが、 いま、瓦礫の下に潰れた足を恨めしく思うのだ。 澄明な朝の空の下、 焼きガレた暮らしの遣る瀬なさ。 途方に、彼方に、茫然自失の昼下がり。 街よ、人よ、友よ、 春を忘れた絶え間ない地鳴りの、 その上に、 僕らは、 余儀無くされ、 見放された、孤絶を、 耐え、 怯え、 泣き、 ふるえる。 朝となく夜となく、絶え間なく、
日常の中に埋没してしまいそうな、 やりきれなさに、 ほんの少し、怯えている。 飲み込まれてしまわぬように、 と 呟く声が、 祈りにも似て。
湿気を含んだ重たい空気が僕の体にまとわり付く。 疲れた体を引きずりながら歩いた。 何も考えないようにしながら。 夕暮れが苦手なんだ。 手を伸ばしてみる。何に触れるだろう? 「過去の傷」なんて言いたくはない。 ひたすら、祈っているんだ。 手抜きなんか出来ないから。 涙がこぼれそうになるのを堪えてみる。 我慢することにどんな意味を見出せばいいのだろう? それでも、息をつめて、我慢していた。 愛しい人の声が、世界一優しい音楽のように耳の奥で響いているのを感じな