tatsuzi

・先天性の身体障害者です。 「いや、それより、こういうことは不快な印象を与えずにおかない。というのも、ぼくらはすべて、多少とも生活からかけ離れ、跛行状態でいるからだ。「地下室の手記」ドストエフスキー

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・先天性の身体障害者です。 「いや、それより、こういうことは不快な印象を与えずにおかない。というのも、ぼくらはすべて、多少とも生活からかけ離れ、跛行状態でいるからだ。「地下室の手記」ドストエフスキー

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    • 詩集  跛行記

      跛行する日々の中で、書いた詩を集めました。

    • 短編小説集

      短編小説です。

      • 詩集  跛行記

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    詩 沈黙

    ひとり、ため息をついてみた。 ワケもなく緊張してしまう身体をほぐそうと。 せめて綺麗な文字を書きたかったのに、 ペン先から生まれた文字は歪んで醜かった。 なにも、上手く言うことなんか、出来なかった。 僕は、諦めて笑ってみた。 僕の饒舌が、いつも僕を黙らせるから。

      • 詩  浸透

        アスファルトが、 冷たく固く雨を弾き、僕の足を拒絶する。 どこにも行けないまま、 風に吹かれる砂のように、崩れるように消え去るだろう。 或いは、日に乾く水たまりのように、 いつも、時間だけが残り、 僕らの息づかいすら忘れ去られる。 もし、 いまはまだ、時間が空気のようなものでも、 地層のように、いつか目に見えるようになるなら、 その時読み解いて欲しい。 僕らの願いを。 時間に刻まれた証を。 愛という幻に右往左往した僕たちが、 みっともないまでに必死に生きた証

        • 詩 部屋

          散らかっていく部屋の中に 僕のため息が加わる。 「自分に始まり、自分に終る」 そんな生き方など、 意味が無いような気がしていて。 読みさしの本や、脱ぎ捨てた服、 メガネや、シーツや、やめた煙草。 そんなモノたちみたいだ。

          • 詩 希い

            傷ついて、流した涙に何を知ろう? 傷ついて、流れた血液に何を語らせる? 寂しい、とふるえるくちびるにどんな「うた」を? きっと、傷ついて流した涙の、その熱さを、 流れた血液の、その熱さを、きみは、知る。 だから、寂しいとふるえる君に、 僕は、ぬくもりを願う。

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            詩 浮き足だって

            世界から離れてしまいそう。 身体が、うきあがりそうなのよ。 と、 彼女は言う。 もう、すでに浮きあがっているのに。 あなたの手に掴まりたいのよ。 と、 僕の手を取る。 風が強くて自信がないけど、 大きな樹に体をくくりつけてみよう。 長い紐に巻かれて。 腰に錘も着けてね。 そうして僕は呟く。 寄らば大樹のなんとやら。 ふわふわするわ。 全然ダメじゃない。 しっかりしてよ。 彼女は言う。 髪をなびかせ、浮き上がりながら。 そこからじゃ、 よく見えないかも知れないけど、 そ

            詩 ため息

            空腹を感じていないのに、 食料を買ってしまうとき、 僕は何に失敗しているのだろうか。 全然大丈夫じゃない時に、 笑って、大丈夫と、答えてしまうとき、 僕は何を隠しているのだろうか。 頭の中がうるさいので、 突き動かされるように ペンを走らせる夜に、 僕は誰と会話したいのだろうか。 思い出したくないことを、 夜中から明け方まで書く時に、 僕は何を殺しているのだろうか。 夜があけて、朝が来た。 朝が来たから夜が払われた。 どっちだっていいことだが、 とにかく僕たちは挨拶

            詩  弟(冬のスケッチ)

            陽射しの明るさより、 その影の濃さに気を取られている。 ボクが消してしまったキミの未来を 償う術もなく生きて わけのわからない文字を 連ねるのみだ。 それは手紙か? 罪滅ぼしの。 勝手に名付けたキミの名を呼ぶ。 「祈り」と名づけた静止画/記憶がある。 仏壇に祈る母 母を見るボク。 白い廊下に光が射しているよ。 キミの色だ。 色は光だ。 でも、有り体に言って、 僕にとって、 それはまるで記憶の美化ではないか。 いや、捏造だ。 美しさからはほど遠い、 色を重ねる試み。

            詩  靴擦れ

            波がきて、 ひいていく、 ただその淡いに、 きみがわらう。 そら。 あおい。海よりあおい、そら。 風にあおが揺れるから、と。 それが可笑しいから、と。 きみが笑うから、 ぼくは、足の痛みを無視して、 きみの、横を、 あるく。

            詩  夕闇の呼吸

            世界があって、僕がいて、 僕がいまいるこの世界が、なくなったことを想像したら、 悲しくなった。 この世界が、醜いのは、僕が吹き出物みたいに世界にしがみついているからで、 だから、 僕が居なくなった世界を想像したら、世界はとても美しくて、 静寂も、喧噪も、歴史も、嘘も、 何にもなくなった、世界が、 世界だけがある世界が、僕がいない、世界が、 美しくて、 僕は、余計者なんだと、知った。 いつもと違う、 同じ 夕暮れのこと。

            詩  抱擁

            怒りと痛みと、 シラケた気持ちと、死にたい熱望と、 理不尽と、不眠に 真っ黒に塗りつぶされた日常の中で、 風と、花と、星が、 生命の官能を呼び覚ますから、 幼い頃の、僕のひだまりで、 夢を食べて生きた幼い頃の僕の日だまりで、 あのひだまりで、 夢に溶けてしまえばよかった。 幼い僕自身に 哀しみを知らなかったあの時に、 はやく、すぐに、躊躇わず、迷わず、 息の根を止めてあげられるよ、現在(いま)の僕なら。 抱擁のなかで。

            詩  形骸

            肉体が精神の乗り物だと 言うヤツがいて、 肉体は内面の外化だと 言うヤツもいる。 何でも安易に信じてしまう罰に 僕は自分の 肉体が いつまで、自らの精神を煩わせるのか、訝しむ。 胎内に置き忘れたカカトを、 恋い焦がれて懐かしむが故に、 僕の精神が、懦弱だと、 きみは早とちりをする。 完全や不完全を言っているんじゃ無いさ。 元来の所有権を主張しているだけだ。 きみにはその違いが見えないか。 自由でありたいと云うのは、 例えば、この肉体から。 例

            詩  僕は、しない

            しない。 何もしない。 したい事以外、しない。 やりたいことは、 と きかれても、さあ困ってしまう。 したくないんだ。 しない、やらない、お断り。 したい、やりたい、喜んで。 は前向き、自発的、仕掛けた生き方 だとして、 そうだとして、 「やりたくない」は受け身かね? 「めんどくさい」は無意味かね? しない、できない、やりたくない。 できないやらない絶対に。 明瞭に。 断じて!!

            詩  世界の美しさ

            世界の美しさなぞ歌う前に 世界の有り様なぞ言う前に、 お前が握りしめている拳を開いて見せよ。 誰も、お前の事など信じやしない。 自らの生活を嘆く前に 自ら招いた不幸にとどめを射される前に お前は自らの言葉を、 自らの耳で聴くのだから、 神など居なくても、 居直りや、自己欺瞞などせずとも お前はお前を裁くのだから、 誰も何も言わないままに 誰も居ない部屋で、 どことも知れぬ時代の誰とも分からぬ自分のままで 縊れて果てる自分を見るのだ。 世界がどんな

            詩  瓦礫

            敗残の身に刺さる 禍事の夕陽が 一夜にして塵芥と空虚に満たされた街を照らしていた。 打ちのめされろと呪ったのは 確かに僕だが、 いま、瓦礫の下に潰れた足を恨めしく思うのだ。 澄明な朝の空の下、 焼きガレた暮らしの遣る瀬なさ。 途方に、彼方に、茫然自失の昼下がり。 街よ、人よ、友よ、 春を忘れた絶え間ない地鳴りの、 その上に、 僕らは、 余儀無くされ、 見放された、孤絶を、 耐え、 怯え、 泣き、 ふるえる。 朝となく夜となく、絶え間なく、

            詩  祈り

            日常の中に埋没してしまいそうな、 やりきれなさに、 ほんの少し、怯えている。 飲み込まれてしまわぬように、 と 呟く声が、 祈りにも似て。

            詩  跛行

            湿気を含んだ重たい空気が僕の体にまとわり付く。 疲れた体を引きずりながら歩いた。 何も考えないようにしながら。 夕暮れが苦手なんだ。 手を伸ばしてみる。何に触れるだろう? 「過去の傷」なんて言いたくはない。 ひたすら、祈っているんだ。 手抜きなんか出来ないから。 涙がこぼれそうになるのを堪えてみる。 我慢することにどんな意味を見出せばいいのだろう? それでも、息をつめて、我慢していた。 愛しい人の声が、世界一優しい音楽のように耳の奥で響いているのを感じな