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情熱大陸 「映像作家・OSRIN」

King GnuのMVを手掛ける映像作家。31歳のOSRIN。
人懐っこく愛嬌がある表情、現場での粘り。細かい作業をおろそかにせず、徹夜仕事も厭わない。
センスに溢れているけれど、根っこで支えているのは「ガッツ」
その佇まいには、どこか見覚えがあった。

アーティストが彼を評価する。
「どんなにキツイ状況でもなんとかしてくれる泥臭い感じはすごいですね」

年上の編集マンが語る。
「昭和ですよね。思ってる以上に昭和ですよ」

アイドルや有名俳優からも仕事がひっきりなしの、最先端の映像作家。
でも軽々と空を飛ぶような自在さは番組からは伝わってこない。新進気鋭のアーティストというよりは、もがき続けるテレビマンの佇まい。代表作とされる「白日」のPVで語られたナレーションが心に引っかかる。

ここだけの話、演奏シーンに徹した作りは本意ではなかったらしい

“迸る才気の一端を覗いてみよう”
そんなフレーズで始まった番組。しかし「天才の物語」ではない。
1フレーム(24分の1秒)にこだわって行われる徹夜作業。ディレクターは聞く。

「(1フレームで)そんなに印象変わるんですか?」
それは、情熱大陸やプロフェッショナルのお決まりの質問。こだわりっぽい一言をお願いします!という、合図のようなもの。

OSRINも答える。「変わるし、分かる」
ここまではお約束の流れ。しかし、その後に続く言葉でまた引っかかる。

「(フレームという)単位ってそのためにある気がする。ちゃんと提案・提供したい事に対して絶対必要なもの」

その言葉は、自らのアートに向かう者の言葉というより、クライアントを説得する仕事人の言葉であるように聞こえた。
かつて手痛い失敗を経験した人間の言葉。納期の異常な短さも含めて、彼はまだ圧倒的に強い立場にいるのではないことが推察される。

アシスタントに任せた仕事に対して、ダメ出しをするシーン。

「微妙だったわ。全部。どれが一番強いかって考えないとさ。とりあえず分かんないから数パターン出しました、って言われても、だったら自分で考えるわってなるよ。
 お前の意思があるかないかでしょ」

それは、テレビ界でもよくある先輩から後輩への言葉。判断を委ねる若手に対してのダメ出し。自分も両方の立場の経験がある。
そしてここでも、最後の言葉が心に刺さる。

「その仕事の仕方をしていたら、消費されるだけだよ」

若者はその言葉の背後にある痛みを受け取っただろうか。一個一個の戦いにこだわらずに負けていくと、どこにも辿り着けない。爪痕を残さないと、有象無象の中で、自分が低い位置に固定されてしまう。それはOSRINが向き合ってきた恐怖のように思えた。

24歳で結婚したという。苦労をかけている妻に言った言葉も印象に残る。

「いつかヤバい人間になる。絶対俺はヤバい人間になるから」

まるで中学生のような、あてもない上昇志向。巨大な才能が鎬を削る世界で、その気持ちを持ち続ける事は簡単ではなかったはずだ。
どの分野でも、きっと自分より上の才能はいる。でも、それでもと。

「センスは無い。期待してないから、自分に。
 だから楽しんでやれちゃうんです。
 期待してると、何でできないんだってなるじゃん。
 邪魔になる期待はしないほうがいい。
 希望はあった方がいいけど、期待はしない方がいい」

理想の自分と、ままならない現実。それを正確に認識して、ど根性とポジティブさと愛嬌で、半ば強引に乗り越えて行こうとする姿。きっと、それが多くの人を惹きつけているのだろうと感じた。この人と仕事を共にしたい。そう思う人の気持ちはよくわかる。

そして、何よりも仕事に対する倫理感。

「責任があると思う。ミュージックビデオも映画もCMも変わらない。誰かの時間を長くか短くかは奪うことになる。そういう責任をもって、やってるほうがいいはず」

31歳の映像作家。その佇まいには見覚えがあった。
こんな若者を僕は知っている。
天才じゃない自分、それでも諦められない表現への夢。
人一倍努力すれば、きっと先へ進めると信じ続ける情熱。

何人かの若者の姿、そしていつかまではそうだったかもしれない自分自身の姿が心に浮かんだ。


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