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日曜の午後のミステリーツアー

これはミステリーツアーだぞ。
父親はそんな事を言って、僕ら姉弟を連れ出した。日曜日の午後。
行き先を決めずに出かけるからミステリーツアー。それはきっと行き先が定まらないからそう言ってただけなのだと、今なら気付くけど。

小学生の僕は、その響きにとってもワクワクした。どこに行くのか決めずにどこかに出かける。そんなことしてもいいの?

ノープランの親によるミステリーツアーは、結局ふたつ先の駅をうろうろして帰ってくるだけだったりしたけれど、あの時のワクワク感は忘れられない。

日曜日の午後。
何もする事がなくて、僕は自転車で川を遡っていく。走っているうちに、携帯の電池が切れそうになるけれど、川沿いに走っていれば帰り道に迷うことは無い。

あてもなく、どこか遠くへ。
それが簡単なようで難しいことを知ったのも、幼い日のミステリーツアー。
僕らはいつも、見知った場所をうろうろするだけだった。見えない引力のようなものが、柔らかに僕らを縛っていて、それを振り切るのは意外と難しい。

いつか、本当のミステリーツアーができるかな。行先も帰る日も決めずに、そんな旅が。
見えない引力を振り払って。

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