2021共通テスト国語:古文全訳

2021共通テスト 国語 第3問(古文)(2021年1月16日実施)
【出典】『栄花物語』巻二十七 ころものたま
 藤原長家(中納言殿)の妻が亡くなり、親族らが亡骸をゆかりの寺(法住寺)に移す場面から始まっている。
【全訳】
 大北の方も、故人と縁故のあった人々も、また何度も身をよじって嘆きなさる。せめてこのことだけでも悲しくひどいことだと言わないのなら、そのうえ何事がありえようかと見えた。そうして亡骸を運ぶお車の後ろに、大納言殿、中納言殿(の車が続き)、しかるべき縁の深い人々は歩きなさる。口に出して言うと不十分なほどで、表現しつくすことはできない。大北の方のお車や、女房たちの車などがそのまま後に続けている。お供の人々などは数えきれないくらい多い。法住寺では、いつものお渡りにも似つかないお車などの様子に、僧都の君は、お涙があふれて、(亡骸を)直視申し上げなさることもできない。そうしてお車を下ろして、次いで人々が降りた。
 そうしてこの物忌の間は、誰もそこにいらっしゃらなくてはいけなかった。山の方をぼんやりと(中納言殿が)目を向けなさるのにつけても、(木々の葉は)さりげなくいろいろに少し色づいている。鹿の鳴く声に御目も覚めて、今少し心細さがつのりなさる。姉たちからも心の慰められなさるようなお手紙がたびたびあるけれど、今はただ夢を見ているようにばかり思いにならずにはいられなくて日々をお過ごしになる。月がたいそう明るいときにも、[明月に)思い残しなさることもない。宮中で行き来する女房も、さまざまにお手紙を差し上げるけれど、並一通りの関わりしかない人からのは、「いずれ自分から(お会いしたうえで)」とだけ(中納言殿は)お書きになる。進内侍と申し上げる人が、申し上げた。
  契りけん……=約束したような千年の月日は涙の水底に沈んでしまい、その涙の水に枕だけが浮いて見えるのでしょうか。
中納言殿の御返歌は、
  起き臥しの……=千年までもという起き臥しの約束は絶えてしまい、尽きないのは枕を浮かせる涙であるよ。
また東宮の若宮の御乳母の小弁は、
  悲しさを……=悲しさを一方では思いなだめてください。誰も最後まで生きとどまることのできる世の中などありませんから。
御返歌は、
  慰めむる……=思いなだめる方法もないので、世の無常のことも考えられないことだよ。
 このようにお感じになりおっしゃっても、ああ、(返歌のできる自分は)まだ物事を感じられるのであるようだ、まして数か月、数年も経ったら、思いを忘れることもあるのだろうかと、われながら情けなくお感じにならずにはいられない。(亡き妻は)何事にもどうしてこうもと思われるほど感じのよい人でいらっしゃったのになあ、容貌をはじめ、性格、字の書き方、絵などへの関心が深く、つい先ごろまでご熱心に、うつ伏しうつ伏ししてお描きになっていたけれど、この夏の絵を、枇杷殿にお持ちしたところ、大変興味をお持ちになりお褒めになって、お納めになったこと、よくぞ献上したものだったよなどと、思い残しなさることのないまま、万事につけて(亡き妻を)恋しいとばかり思い出し申し上げなさる。長年にわたって書き集めなさった絵物語など、(数年前の火事で)すべて燃えてしまった後、去年、今年のうちに集めなさったのもたいそう多かったのを、自邸に戻ったときには、取り出しては見て心を慰めようとお思いになった。

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