どうやる入試古文・シリーズ第2回

問題演習(トレーニング)のハードルを低くする。
(1)解釈の問題
★「解釈」とは、 省略部分や指示語の内容を明らかにした現代語訳である。
★解釈できないのを、「古語を覚えていないから」で済ませないこと。
★最優先するべき、前後関係〔=文脈〕で、リード文や注も見逃さない。
★次に文法(助動詞・敬語)を手がかりにし、最後に古語の知識をあてはめる。

【例】2013センター試験『松陰中納言物語』
リード文=東国に下った右衛門督は下総守の家に滞在中、浦風に乗って聞こえてきた琴の音を頼りに守の娘のもとを訪れ、一夜を過ごした。以下の文章は、それに続くものである。
文章の冒頭=つとめて、御文やらせ給はんも、せん方のおはしまさねば、《いと心もとなくて過ぐし給ひける》に、主人のまゐり給うて、
問《  》の解釈として最も適当なものを選べ。
①そんなに気にも留めずに見過ごしていらっしゃった
②たいそう気をもんで時を過ごしていらっしゃった
③ひどく不安に思ってそのままにしていらっしゃった
④それほど楽しくもないまま過ごしていらっしゃった
⑤たいへんぼんやりと日を送っていらっしゃった
【解法】
★リード文から、冒頭文は「右衛門督」が「下総守の娘」と「一夜を過ごした」ことに続く場面であるがわかる。「つとめて」は「その翌朝」である。
★《  》の直前は「せん方のおはしまさねば」で、直後は「主人のまゐり給うて」である。
★《  》の末尾「給ひける」は、全ての選択肢が「ていらっしゃった」としており、「給ひ」は尊敬の補助動詞、「ける」は過去の助動詞であるとわかる。
★文脈は、「右衛門督」が「下総守の娘」に「御文」をやろうとするにも「せん方」がないので、《~ていらっしゃった》ところ、「主人」が来たということになる。、
★「心もとなし」は、気がかりなことがあり、あれこれ思いを巡らして落ち着かない感じを意味する形容詞である。
★以上を踏まえ、正解は②。

(2)心情説明の問題
★心情を説明した箇所で正解が決まるとは限らない。
★心情は形容詞、形容動詞で表すのが一般的である。
★やはり文脈〔=前後関係〕を踏まえ、各選択肢を比較・検討すべし。
【例】2013センター試験『松陰中納言物語』
~かくとも言はで、几帳かけ渡し、隅々まで塵を払へば、「蓬生の露を分くらむ人もなきを、さもせずともありなん」とのたまへれば、《「蓬の露は払はずとも、御胸の露は今宵晴れなんものを」》とうち笑へば、いと恥づかしと思す。
問《  》の言葉には右近のどのような気持ちがこめられているか。
①訪ねてくるかわからない人を思って掃除までしなくてもよいと言う女君に対して、部屋の塵は払えなくても心配事は払うことができると明るく励ます気持ち。
②踏み分けられないほど蓬が茂った庭を恥ずかしがる女君に対して、庭の手入れまで手が回らなくても、きちんと部屋を掃除しているから大丈夫と慰める気持ち。
③訪ねてくる人もいないのになぜ掃除するのかと不思議がっている女君に対して、今夜はお客さまの右衛門督が訪れるから必要なのだと安心させる気持ち。
④誰も来るはずがないから掃除の必要はないのにと言う女君に対して、右衛門督の訪れをひそかに待っている女君の心はわかっているとからかう気持ち。
⑤露に濡れた蓬を分けて訪れる人もないのにとすねる女君に対して、右衛門督を思って沈んでいる女君の胸の内を晴れやかにするための掃除なのにと反発する気持ち。
【解法】
★《  》の言葉は「とのたまへれば」に続いており、「女君」がおっしゃった「蓬生の露を分くらむ人もなきを、さもせずともありなん」という言葉に「右近」が応答したとわかる。
★《  》の言葉の後は「とうち笑へば」であり、「右近」は笑って言っている。
★「右近」が笑って言ったその言葉に、「女君」は「いと恥づかし」とお思いになる。
★「女君」の発言の「蓬生の露を分くらむ人もなきを、さもせずともありなん」にある「させずとも」は、「そうしなくても」と解釈でき、「そう」は「几帳かけ渡し、隅々まで塵を払」うような掃除を指す。
★「女君」は、「蓬生の露を分くらむ人」はいないので、入念に掃除をしなくてもいいでしょうと「右近」におっしゃった。
★選択肢から「右近」の気持ちを取り出すと、①「明るく励ます気持ち」、②「大丈夫だと慰める気持ち」、③「安心させる気持ち」、④「からかう気持ち」、⑤「反発する気持ち」となる。
★選択肢を比較・検討すると、全てが「Xする女君に対して、Yする気持ち。」という構造であることがわかる。
★「Xする」に当たるのは、「蓬生の露を分くらむ人」はいないので、入念に掃除をしなくてもいいでしょうという「女君」の発言である。
★これにより、①「掃除までしなくてもよい」、④「掃除の必要はない」は正しいが、②「きちんと部屋を掃除しているから」、③「なぜ掃除するのかと不思議がって」は誤り。⑤の「女君の胸の内を晴れやかにするための掃除」は見当違い。
★ただ、①は「訪ねてくるかわからない人を思って」する「掃除」ではないので不適。
★「蓬生の露を分くらむ人」はいないのだから、①「訪ねてくる人もいない」、④「誰も来るはずがない」、⑤「訪れる人もない」は正しい。
★「右近」の言葉にある「御胸の露」は、今宵「右衛門督」が訪れることで晴れる「女君」の秘めた恋心を指している。
★以上から、正解は④。

(3)内容正誤の問題
★登場人物の心情よりも言動に注目する。
★選択肢から本文の内容について情報を仕入れる。
★全ての選択肢にある同一の情報は正しい。
★複数の選択肢にある同種の情報はグルーピングする。
【例】2013センター試験『松陰中納言物語』
問 この文章の表現と内容に関する説明として最も適当なものを選べ。
①「浦風」「海」とあるように都から遠く離れた場所が舞台となり、「波の音」などの聴覚に訴える表現や「蓬」などの自然の描写によって東国のひなびた情趣が表される一方で、「琴の音」を響かせる女君のみやびな風情が対比的に描かれ、都人である右衛門督が女君に心ひかれるいきさつが明らかになっている。
②敬語を重ねて高い敬意を表す「染ませ給はぬにや」「調べさせ給ひて」「入れさせ給ふとて」のような表現が都人の右衛門督に対してのみ用いられ、東国暮らしの女君には用いられていないことから、二人の身分の差がはっきりわかるようになっており、身分違いの恋に試練が待ち受けていることを予感させている。
③「人目」「人をしづめ」「人もこそ見め」など、他人を意識する右衛門督と女君の様子が繰り返し描かれることと、そのやりとりの合間に母君や右近の察しの良い反応が差し挟まれることによって、周囲の「人」に認めてもらうことを恋の成就の重要な条件と考える右衛門督たちの心が読み取れるようになっている。
④女君と右衛門督とが、「唐琴」「小犬」「香箱」に添えて贈り合う歌の言葉が、Aの「あひみて」「かなしけれ」「心ならひ」からBの「別れ」「かなしさ」「心まどひ」へとつながり、さらにCの「別れ」「心のまどふ」へと受け継がれており、互いの歌の言葉に応えながら少しずつ心を通わせていく二人の心情の変化が描かれている。
⑤女君と右衛門督のやりとりに敏感に反応し行動する母君や右近の様子とは対照的に、右衛門督に求められて「思はずながら」琴を取り寄せてしまう下総守や、「小さき犬をこそ、賜ひぬべけれ」「犬をこそ、まゐらすべかめれ」などの言葉に喜んで知らないうちに文の使いをさせられている弟君の様子が、巧みに描かれている。
【解法】
★①「描写によって」、②「ことから」、③「ことによって」といった方法・手段を示す語句に注意する。
★そしてそれぞれが、①「都人である右衛門督が女君に心ひかれるいきさつ」、②「身分違いの恋に試練が待ち受けていること」、③「周囲の『人』に認めてもらうことを恋の成就の重要な条件と考える右衛門督たちの心」を表現する手段になっているかを点検する。
★③「母君や右近の察しの良い反応」、④「互いの歌の言葉に応えながら少しずつ心を通わせていく二人」、⑤「敏感に反応し行動する母君や右近」「琴を取り寄せてしまう下総守」「知らないうちに文の使いをさせられている弟君」といった登場人物の動作や様子を、本文の記述と照応する。
★正解は⑤。

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