どう書く一橋大国語1現代文2018

2018一橋大学 問題一現代文(評論・約3600字)35分
【筆者】紀平知樹(きひら・ともき)
1969年生まれ。阪大大学院文学研究科博士課程単位取得退学。哲学・倫理学専攻。兵庫医療大学(2022年4月、兵庫医科大学に統合予定)共通教育センター教授。
【出典】「知識の委譲とリスク社会」。『岩波講座哲学04』(岩波書店2008年)所収。
【解答例】
問い一(漢字)A=養殖 B=欠陥 C=賄う D=肥沃 E=矛先
問い二「それは確かに単純な近代化と同じではないにしても、それとまったく異なった種類のものであるわけでもない。」とあるが、これはどういうことか。本文全体をふまえて答えなさい(九〇字以内)。
〈ポイント〉
・「それ」は「再帰的近代化」を指す。
・「単純な近代化」と「再帰的近代化」はいずれも「産業化の過程」である。
・「再帰的近代化」は、「近代が産み出した成果そのものが、自らを破壊し、あるいはそれを産業化する過程」という点で「単純な近代化」と異なる。
・「再帰的近代化」については、環境破壊の例で「自然の自己再生能力」を上回るほどに人間が「科学によって裏打ちされた技術」という「大きな力」を行使していることがあげられている。
★再帰的近代化は、近代の産み出した成果そのものが自然の自己再生能力を大きく上回って自らを破壊する点で単純な近代化と異なるものの、科学に依拠して産業化する過程である点で同じであること。(90字)
問い三 「外部化」とはどういうことか、答えなさい(一五字以内)。
〈ポイント〉
・傍線部を含む一文は、「この脱文脈化の過程を通じて、科学が自然や社会に及ぼすマイナスの破壊的影響は外部化され、見えなくなる。」である。
・「マイナスの破壊的影響」は「近代化の帰結として生じてきたリスク」をさす。
・「外部化」とはもともと「内部」にあったものを切り離して「外部」に置くことである。
・「外部」に置いて「見えなくなる」のは、「視覚化」「可視化」の反対の現象である。
・「リスクはわたしたちによって直接的に経験できず、むしろ科学によって可視化される」。
・すると「マイナスの破壊的影響」が「外部化される」とは、「リスク」が「直接的に経験できなくなる」ことであり、その結果「リスク」が「見えなくなる」のだとわかる。
・つまり「科学的知識」が「それ自身の状況を脱文脈化」する過程において、「知のあり方そのものが変化」し、「リスク」が「外部化され、見えなくなった」のである。
・「外部化」を置き換えるとそれを含む部分は、「科学が自然や社会に及ぼすマイナスの破壊的影響は『悪影響が意識されなくなり』、見えなくなる」となる。
★直接的に経験できなくなること。(15字)
問い四 筆者はこの文章の後で科学が「ある種の政治的な力」を持つことに言及している。科学が「政治的な力」を持つのはなぜか、文章の内容から論理的に推定しなさい(六〇字以内)。
〈ポイント〉
・「政治的」とは、理屈の上だけでなく、現実に即して判断する様子である。
・「科学が『政治的な力』を持つ」ことは、「科学はこの社会の中でこれまで以上に権威をもつことになる」という箇所を参照すると「論理的に推定」できる。
・「この文章の後で」とあるので、本文末尾の「科学は自らが生み出した環境破壊というリスクのみならず、この革命〔=緑の革命〕の基盤となっている科学自身に目を向けなくてはならなくなったのであり、再帰的近代化の段階にいたるのである」を踏まえて、「再帰的近代化の段階」における「科学」のあり方を示す。
★科学の産み出したリスクを直接知覚できないという再帰的近代化の段階における現実に対し、科学的知識で解決を図るしかないから。(60字)

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