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腸内細菌叢を移植すると

皆さんこんにちは。生命科学研究者のTatsuyaです。

前回細菌叢についてはここまでにしようと思いましたが、大事なことを忘れていたのでもう一回延長です。
これまでいくつか細菌叢が変化する要因について解説しましたが、今回は細菌叢移植についてです。移植というと、すごい治療のように聞こえますが、今回はその方法や治療成績についての報告がありましたので、ご紹介します。

今回は2020年のGastroentelorogyに掲載された"Fecal Microbiota Transplantation Is Highly Effective in Real-World Practice: Initial Results From the FMT National Registry"というアメリカの多施設臨床研究の速報です。

概要

腸内細菌叢移植(FMT)はクロストリジウム感染症(CDI)の治療に用いられていますが、その治療成績や、有効性についてははっきりしていません。今回の研究ではアメリカ国内20施設で259人のCDIの患者にFMTを行った結果を解析しました。その結果、
1、1ヶ月間の経過観察では90%がCDIから改善し、そのうち98%は一回の移植のみで改善していました。
2、6ヶ月先まで経過観察した場合でも再発率は4%でした。
3、副反応は腹痛や下痢が2%の人にみられました。
これらの結果から筆者らは、FMTはCDIの治療に非常に有効で、安全性も高いとし、今後は長期間の経過観察を続けていくとしています。

今日のポイント

クロストリジウム腸炎

今回は腸内細菌叢移植をちょっと特殊な、クロストリジウムという菌のせいで起こる腸炎の治療に使うという論文でした。
実はこの腸炎は日和見感染症と言って、ほとんどの人が通常持っている菌でなのに、腸内細菌叢のバランスが崩れて、この菌が大量になった時に突然ひどい腸炎を起こすという、まさにディスバイオーシスのせいで起きる腸炎なんです。
しかも一旦なってしまうと、強力な抗生剤を投与する必要がある治療の難しい腸炎です。そうなるとさらにディスバイオーシスが起きて、再発しやすい環境になるという悪循環。

腸内細菌叢移植(FMT)とFMTバンク

そこで治療法として候補に上がったのがFMTです。
健康な人の腸内細菌叢をそのまま移植することで、ディスバイーシスを解消するというもので、今回の報告ではこれがとてもよく効いています。
速報なので、長期成績はこれからですが6ヶ月後も再発率はたったの4%でした。
そこで気になるのが、健康な人って誰?
そこがまだまだわからないことが多い腸内細菌叢の問題なのですが、この報告によると、96%がprimary stool bankと言われるところに保存されている匿名の提供者からのもので、多くが大腸カメラをして投与されていました。

というわけで、一種の腸炎に対しての腸内細菌移植は、副作用もなく、素晴らしい治療効果がみられましたので、今後はもっと多くの疾患や、健康増進のためにも使用される日が来るかもしれませんね。

それでは今回はここまで。
ご質問、ご感想などありましたらお気軽にコメントしていただけると嬉しいです。それでは!

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