見出し画像

煉獄の炎で”負”の歴史を薙ぎ払え!巨人の守護神・大勢

「煉獄」とは、この世とあの世の間に存在する浄めの場である。生前に犯してしまった罪を炎によって浄化するのだ。つまり「煉獄」は霊魂を天国へ導くか、地獄へ導くか、その裁決を下す番人でもある。
そんな「煉獄」の炎を身に纏い、まるで相手チームの選手たちを地獄へと送り、味方チームを天国へと導くかの如く剛腕を振るうマウンドの番人が、プロ野球界に降臨した。
読売巨人軍の背番号15…大勢である。

なぜ、大勢を「煉獄」の炎で例えたか。
大勢は巨人リード時の9回、マウンドへ向かう際に、『鬼滅の刃』煉獄杏寿郎の
テーマ曲を使用している。無限列車の薪を焚べるかのような前奏から幕を開け、壮大なハーモニーを奏でる一曲に乗せて、マウンドへと向かうその姿は、球場全体の空気を一変させ、相手チームに残酷な運命を突きつける、まさに「守護神」と呼ぶに相応しい圧倒的な存在感を放つ。
相手を威圧するかのように投球練習を行い、炎の渦巻いたマウンドから相手打者を見下ろす。そして、踊るようなスリークォーターの投球フォームから、打者の胸元を抉る火の出るようなストレートを解き放つ。
2022年の大勢のピッチングからは神々しさすら感じさせられた次第である。
言うまでもなく、いつの間にか大勢という投手の虜になってしまったわけだが、開幕戦であの鮮烈な守護神デビューを飾るまでは、正直なところ、そこまで期待を寄せていたというわけではなかった。

大勢は2021年ドラフト1位で関西国際大学から入団した。
巨人は当初、西日本工業大学の隅田知一郎を指名し、外れ1位という形で大勢を指名した。
アマチュア時代の評価は上々だったが、コントロールにいささかの問題を抱えていそうな投手だなというのが第一印象だった。
ところがどっこい、巨人の大勢に対する評価はかなり高いものであった。
球団創設90年を間もなく迎えようとしている名門球団において、史上初となるファーストネームでの登録を許され、様々な名選手が背負ってきた背番号15を与えられたのだ。
巨人の背番号15…歴史ある背番号ではあるものの、ここ20年ぐらいの期間を振り返ってみると、不遇な野球人生を送ることが多い曰く付きの背番号でもある。

昭和の読売巨人軍を支えた捕手の山倉和博など、野手が背負うこともあった背番号15は、21世紀を迎えた2000年代に入り、投手の代表的背番号となった。
2002年に守護神として活躍した河原純一、大阪桐蔭高校から鳴り物入りで入団した左腕投手の辻内崇伸、前年の日本シリーズで存在感を発揮し、先発ローテの一角として期待された木村正太、そして、新人王、セーブ王にも輝いた88年世代の代表的投手の澤村拓一。彼らは皆、巨人軍の歴史を振り返ってみても、稀有な存在感を発揮し、チームを支える名投手になるであろうと期待をかけられた選手たちだった。
しかし、彼らはまた、選手生命を脅かす怪我や突然の不振などに悩まされ、最終的には戦力外通告やトレードによって巨人軍から立ち去った選手たちなのである。
そのため、巨人ファンにとって、背番号15はあまり縁起の良い背番号ではなかった。

しかし、そんな過去をも払拭するかのような大勢のピッチングは、ファンの不安を打ち消した。
最終的には、新人最多セーブ記録に並ぶ37セーブを挙げ、防御率は安定の2.05。
#大勢はガチ 旋風を巻き起こしたその活躍は他球団ファンの間にも知れ渡り、大勢が出てきたら終わりという絶望感すら与え、新人王のタイトルを獲得するに至った。
4位というBクラスでシーズンを終え、中継ぎ陣が軒並み大炎上を繰り返した、読売巨人軍の救世主となったのである。
まさに、背番号15の不吉な歴史を薙ぎ払う活躍だったと言えるだろう。
だが、そんな無双状態の大勢に、一矢報いた選手がいたというのもまた事実だ。
史上最年少で三冠王に輝いた東京ヤクルトスワローズの村上宗隆だ。
大勢はこの村上に節目となる55号本塁打を献上している。同世代である村上に日本人選手最多タイ記録となる55号を打たれたというのは、大勢に悔しさをもたらしたことだろう。
雪辱を誓う大勢は、2023年、きっと倍返しにしてやり返してくれるはずだ。

村上の一打で消えかかってしまった煉獄の炎は、いま、再び燃え上がる時を迎えようとしている。
思えば、かつての背番号15澤村拓一もルーキーイヤーは200イニングを投げ切っての新人王を獲得するなど、獅子奮迅の活躍を見せた。
大勢もまた、二年目以降が勝負となる。しかし、大勢に「二年目のジンクス」なんてものは当てはまらないだろう。
2023年は、シーズンを前に、第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の舞台が大勢を待ち受けている。
まずは世界を相手に、侍ジャパンの守護神として球場を支配したピッチングを期待したい。
そして、世界一の栄冠を手にした後は、読売巨人軍をリーグ優勝、日本一へと導く。
さあ、青写真は完成した。来る審判の時…日本よ、いや、世界よ、大勢の炎の一球に刮目せよ。

(文:廣島達哉)

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?