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かあさん ありがとう

「産んでくれてありがとう」を伝えた一年半後に、母は他界しました。
ちょうど今月でまる9年になります。

亡くなるまで40日ほど緩和ケア病棟に入っていました。
病院が近くて、毎日2回、お見舞いに通いました。

苦しむ姿を見ると、早く楽になってもらいたい気持ちと、一日でも長く生きてもらいたいという気持ちとを行ったり来たりしていました。

母のことが気がかりでしたが、講演の仕事が入っていたので、一泊で大阪に行きました。
その講演では「両親へのありがとう」がテーマのひとつになっていたので、母へのメッセージを写真をつかったスライドショーを作り、映すことにしました。

母が亡くなってから、妻と2人の息子たちと、その動画をいっしょに見ました。パソコンのモニターを見ながら4人で泣きました。

「ありがとう」って、一度伝えたらいいってもんじゃないんだなぁ、なんて思ったことを覚えています。
こんな文章です。

「かあさん ありがとう」

かあさん
子どもの頃は
心配ばかりかけました

僕のせいで近所に
よく謝りに行っていました

そんな僕が大人になって
テレビに出たり新聞に載ったりすると
とても嬉しそうでした

新聞の切り抜きを見せては
「毎日おまえを見ているよ」
と言っていました


僕の息子たちが行くと大喜び
そのあとにいつも
「お前の顔が見られてよかった」
そう言ってくれました

2年前に僕が
20世紀梨初出荷イベントの
ステージで歌ったとき
あなたはいつの間にか来ていて
一番奥の片隅で
見てくれていました

足が悪いのに
来るのはたいへんじゃなかった?
僕の歌をききながら
泣いているのが見えました


そんなあなたが今はベッドの上で
はっきりしない意識で
いつも使う方言で
苦しいという意味の
「えらい」という言葉を
うわごとで言っています

「かあさん」
小学生のとき以来
握ったことのない手を
何十年ぶりかにぎゅっと握っても
握り返してこない手

50を過ぎた大の男が
ずっと我慢ばかりしてきて
どこまでもとことん優しかった
あなたの顔を見ながら
まぶたを腫らしています


僕が子どもの頃
泣きながら帰ってきた僕を
真っ白い割烹着を着たあなたが
抱いてくれました

あなたの姿を思い出し
ほんとうは病院中に
響き渡るような大声で
叫びたいのを我慢しています

かあさん
せめて「ありがとう」を
もう一度伝えさせてください

かあさん
ありがとう


もしサポートしていただけたら、さらなる精進のためのエネルギーとさせていただきたいと思います!!