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詩) マント


僕は自転車で「寒いな」と言った。

後ろに乗る3歳の君は、ふいの僕に言ってきた。


「じゃあ、マントきたら?」


僕は思わず吹き出してしまった。


自分がマントを着て街中を歩く姿を想像して、吹き出してしまった。


中年男がマントを翻して、街中を闊歩する姿だ。




アンパンマンにスーパーマン。

怪傑ゾロリにおしり探偵の怪盗ユー。

君が読む絵本には、マントをつけた人がたくさん出てくる。

そんな君にとっては確かにマントは普通の服やんな。



僕は思い出した。

ある日君が聞いてきた。

絵本のマントを着る人を指差して

「なんで、コレ着てるの?」


僕は確かになんでやろ?と思った。

パッと思い浮かんだのは

「確かに、着ている理由がないな」

ということだった。

強いて言うなら

「雰囲気を出すため」

という、どうしようもない大人な理由だった。


僕は一瞬で頭を巡らし、本来のマントの目的を考えて、こう答えた。

「ああ、寒いんちゃうか」


君はうんともスンとも答えなかった。

ただ、この時の僕の返事を覚えてたんやな。




場面は自転車に戻る。

僕は笑いながら答えた。

「いや、ちょっと恥ずかしいわ」


君はこう答えた。

「でも温かいよ」


「・・・・」




確かにそうやな。

温かそうやな。

代謝の衰えからか、近年冷え性気味の僕だ。

優しい言葉に心が温まった。





数週間後、トイレにいた僕に、

君がお母さんに話しかける声が聞こえてきた。

何の話かと思ったら、僕の誕生日についてだった。


君はこう言ったね。

「お母さん、次のお父さんの誕生日プレゼントに

 マント買ってあげて」



「・・・・」



ありがとう。

実際にマントを着ずとも

心がどんどん温かくなっていく。







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