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「普通のママさん」達の声が政策に反映されるまでの1年間の軌跡。新宿区で「保育園の使用済みおむつ持ち帰り問題」が解決するまで。

2019年7月、東京都新宿区で公立こども園(保育園)に通うママさん達を長年悩ませてきた「保育園の使用済みおむつ持ち帰り問題」が解決しました。

これは区政関係者の皆さんの努力の賜物です。

しかし実はその裏には、変化を民間から後押しした「普通のママさん」達の活躍がありました。

この活動にissuesとして伴走させていただいていたので、当時を振り返る座談会の様子を記事にしました(本座談会は2019年7月に開催しました)。

登場人物
【新宿区の子育てを考える会】飯尾慶子さん、高橋純子さん、松本素奈桜さん、内山久美さん
【株式会社issues】廣田達宣(新宿区の子育てを考える会の活動を無償でサポート)

使用済みおむつを毎日持ち帰る大変さ

【廣田】今日はよろしくお願いします!さて、まずは新宿区で「保育園の使用済みおむつ持ち帰り問題」が解決する前のお話を聞かせて頂けますか?

「新宿区の子育てを考える会」のリーダー・飯尾慶子さん

【飯尾】当時は大変でしたね...0歳で保育園に入園してから2歳くらいまで、毎日おむつが出ます。これをビニール袋に入れたものを、毎日のお迎えの時に先生から渡されるんです。これが結構かさばるんですよね...

【廣田】どれくらいの大きさだったか、ジェスチャーで教えていただけますか?

【一同】うーん、これくらいだったかな?

【飯尾さん】園から持ち帰るものは他にもたくさんあって、うちは2人の息子のぶんと私の荷物を合わせると6〜7kgくらい。更に体重約10kgの弟を抱っこして、走り回るお兄ちゃんを追いかけながら帰宅するんです。

家が近ければまだ良かったんですけどね...近くの園には入れなかったので、2kmくらいの道のりを、その状態で歩いて帰るわけです。

保育園に入れただけでありがたかったので、大変だけど我慢するしかないかな...と当時は思っていました。

高橋純子さん

【高橋さん】雨の日は本当に憂鬱でしたね。傘からはみ出した荷物に雨がかかってどんどん重くなっていって。寒くて暗い道で汚物を持たされて帰っているというのが、なにかの罰を受けてるみたいで。「私は何をやっているんだろう...」と泣きそうになったりしました。

おむつの袋を持ったままスーパーで買い物するのも気が引けていました。こんな不衛生なものを持ち込んで良いのかなって。お迎え前の買い物は園の規則でNGで、かといって買い物しないわけにもいかないので、仕方ないんですけどね...

保護者が持ち帰る事で健康チェック...?

【廣田】他の自治体では過去に「保護者が持ち帰ることで健康チェックをしてもらうために持ち帰ってもらっている」という行政からの議会答弁もありました。実際にそのようなことはされていましたか?

【一同】いやいや、そんなのやったことないです!(苦笑)

【飯尾さん】そもそも違う子の使用済みおむつが袋に入っていることもありました。そういう時は親同士でお互いに連絡しあって、捨てておいてもらうんです。

毎日多くの業務をこなす保育士さんにとっても、おむつの仕分け作業が余計な負担になっていたんじゃないかなと思います。なので園にクレームを言うのも違うかなって。

行政への要望は人生初!普通のママさん達が立ち上がった経緯

【廣田】今回のように行政への要望をするような活動を過去に経験された事はあったんですか?

内山久美さん

【内山さん】こういった活動は初めてでした。リーダーの飯尾さんが「なんとかしよう!」って立ち上がってくれて、それで初めて関心を持った感じですね。

【高橋さん】私は過去に似たような活動に少し参加したことがあります。しかしその時はうまくいかなくて「やっぱり何も変わらないんだ...」というある種の無気力感を抱いていました。

松本素奈桜さん

【松本さん】私たちは同じ園の保護者会の役員なんですが、その活動の中で保護者から「持ち帰るものの量の多さが気になる」「せめておむつは園で廃棄できるのでは?」という声があがって。

それがきっかけで、何か自分たちにできることをやろうという話になったのがきっかけですね。

【高橋さん】まずは園長先生に相談してみたんですが「公立のこども園なので行政の方針に沿って運営する必要がある」と言われて。そこで区に要望してみよう!という話になったんです。

最初は思いつくままに、区長さんが来るイベントに行って質疑応答の時間に聞いてみたり、保育課の課長さんに会いに行ってみたりしていました。

でも「このテーマについては研究中です」というような答えしか返ってこなくて。のれんに腕押しな感じだったので、たぶんこれは難しいんだろうなぁ、と思って。

【飯尾さん】それで、先行事例となった自治体を探している時にissues代表の廣田さんのことを知って、勇気を出してご連絡をして会いに行ったんです。

自治体に要望をする時は誰にどういう手順で話を持っていくのが適切なのか、どういう資料を作って持っていけば良いのか、など突っ込んだ話を詳しく教えてもらいました。

株式会社issuesでは、くらしの悩みを地元の議員さんに簡単に相談できるWebサービスを運営しています。当時はサービス提供開始前、この事業が成立するかどうかを検証するため「行政への要望をしたい住民の活動を無償でサポートさせて頂く」という実験的な取り組みを行っていました。

アンケートで保護者の声を集めて区議の方々にお届け

【廣田】初めてお会いしたのがもう1年近く前のことになります。懐かしいですね...

【飯尾さん】ですね!Facebookメッセージで廣田さんから毎日のように色々なアドバイスを頂きながら、活動を進めていきました。

2018年9月から本格的な活動が始まりました

【廣田】これまでの活動を改めて振り返ってみましょうか。

【飯尾さん】色々やりましたが、大きなものはアンケートでしたね。10月くらいに保育園の保護者会で配布させてもらったんです。90件くらいの回答が集まって、その9割以上が「おむつを園で廃棄してほしい」という意見でした。

【松本さん】それを持って、色々な会派・政党の議員さんにお話を持っていきましたね。これも廣田さんと相談しながら、それぞれの議員さんごとに適切な方に紹介していただいてアポをとり、会いに行きました。

【廣田】議員の皆さんがなんとおっしゃっていたか、覚えていますか?

【内山さん】アンケートについてとても喜ばれたことが印象に残っています。「これだけ多くの区民が困っているんですよ」ということを数字で客観的に伝える事ができたのが良かったんだと思います。

あとは今回の活動の主体として「新宿区の子育てを考える会」という任意団体を作ったんです。アドバイスに従って名刺も用意して、お願いしたい内容をA4で1枚の要望書にまとめたものを持っていきました。これも反応がよかったですね。

自分たちでイラストを作り「新宿区の子育てを考える会」の名刺に掲載しました

【高橋さん】実はアンケートの中に「園で廃棄してくれるならその分の費用はお支払いしても良い」という声も多数あったんです。

私たちはそれだけ困っているんです!とお会いした議員さんにお伝えしたんですが「皆さんの本気が伝わってきました」と言われました。

半年後、ついに区が方針転換!

【廣田】活動開始から半年近くが経った2019年2月、ついに区が動きましたね。

【飯尾さん】一部の議員さんからは、1月くらいに何度か進捗報告をして頂いていました。そして2月に「区が方針を転換することを議会で発表しました!来年度から実現できそうですよ!」という連絡を頂いて。

第一報が入った直後のやりとり

【内山さん】その瞬間はまさか!と思いましたね。こんなに早く実現するなんて!と。知らせを受けたときは、にわかに信じがたかった。

最初に役所の方のそっけない反応を聞いた時は、実現まではきっと何年もかかるだろうなと思ってましたから。なのでとても感慨深かったですね...。

ニオイがまったくと言って良いほど変わった

【廣田】2019年7月に、新宿区の全ての公立こども園で使用済みおむつの園内廃棄が始まってから2週間が経ちました(※この座談会は同7月中旬に行われました)。以前と比べていかがですか?

実際に張り出されたお知らせ

【飯尾さん】まずニオイがまったくと言って良いほど変わりました。去年の梅雨の頃はお迎えにいくとムワーっとしたニオイが漂ってきてたんですけど、それがなくなったんです。

そして明らかに荷物は減りましたね。持ち帰り用のビニール袋への名前の記入が不要になったのも大きいです。保護者の負担はすごく軽減されたと思います。

私たちの活動をしてている保護者の方々からは「本当にありがとう!飯尾さん、神です!」と声をかけてもらったりしました。「働きかけて下さった区議の方々や実務を担ってくださった行政の方々のおかげなんですよ」とお伝えしたんですが、やはり嬉しかったですね。

住民の困り事を伝え、課題を解決するために必要な事。

【廣田】それは嬉しいですね!では改めてこの1年を振り返ってみて、いかがですか?

【飯尾さん】親身になって動いてくださった区議の方をはじめとして、区政関係者の皆さんに感謝!ですね。

【松本さん】廣田さんにもとても感謝しています!私たちは最初、政策がどうやって決まっていくのか、どうやって要望すれば実現しやすいのか、といった事をまったく知らなかったんです。教えて頂けていなかったら、この結果はなかったと思います。

【廣田】そんな風に言って頂けるとは...嬉しいです、ありがとうございます!他にはいかがですか?

【内山さん】実は私はこれまでの人生、政治家の人に対して、なんとなく距離感を感じていて、なるべく関わらないようにしてきたんです。でも今回のことを通して、政治家の人達とは適切な関わり方があるということを学びました。

【飯尾さん】わかります。私はこういう「政策提言」「ロビイング」「ロビー活動」といったものに対するイメージが、今回の活動を通して一気に代わりました。

今回のおむつの問題もそうですが、私たちのような子育て中のお母さんって、日々の生活の中で困り事をたくさん抱えてるんです。

ただ「困ってるけど我慢しているうちに子どもが大きくなって解決しちゃった」みたいな事ばっかりで。結果として、その課題は解決されないまま次の世代に引き継がれてしまう。

当事者じゃない議員の人たちってこういう課題に単純に気づいていないだけだったりするんですよね。なので私たちのような当事者から困り事を伝える事で改善につながっていく。そのために必要なプロセスなんだなと思いました。

【高橋さん】私も生まれて初めて政治家の人たちとちゃんとお話しして、同じことを感じました。皆さん志があって政治家になっているわけなので、私たちが困っていることを伝えるとそれを解決するために一所懸命になってくださるんですよね。

ただ一方で、こういう活動は誰にでも出来るものじゃないなと思いました。今回私たちは平日の昼間に仕事を休んで議員の方々に会いに行ったりしたんですが、働きながら子育てをして、それと同時並行でやるのは本当に大変なことです。

だからオンラインでそれが出来る「issues」は本当に良いサービスだと思うんですよね。廣田さん達には是非とも頑張ってほしいなと思います。

【廣田】綺麗に締めて頂きありがとうございます!ご期待に応えられるよう、今後とも頑張っていこうと思います。

株式会社issuesについて

政策×テクノロジー領域のスタートアップ企業。2019年3月より、くらしの悩みを地元の政治家の方に簡単に相談できる「issues」というWebサービスを運営しています。

私たちはこのサービスが成り立つかどうかを検証するため、2018年にいくつかの自治体で地元住民による政策提言の活動を無償でご支援してきました。

2019年4月には東京都武蔵野市愛知県豊田市にて、2020年4月には東京都八王子市にて、ご支援していた要望が実現しています(なお現在はサービス運営に集中するため同様の取り組みは実施していません)。

私たちはあらゆる政治勢力と適切な距離感を保ちながら、政策の当事者である一人ひとりの国民の声を政策決定の現場に届け様々な社会課題を解決する、新しい時代にあったインフラを作っていきます。

【追伸①】一般の有権者の方へ

保育園使用済みおむつ持ち帰り問題のみならず、それぞれの地域の実情に合わせて様々なくらしの悩みを抱えていらっしゃることかと思います。

「この記事のママさん達のような活動をするのはちょっとハードル高いかも...」というあなたも、issuesを使えばスマホから地元の議員の方々に簡単に相談することができます。よかったら以下のページにアクセスして使ってみてください。

保育園おむつ持ち帰り問題についてはこちらのページで取り扱っています。

【追伸②】議員・政党関係者の方へ

現在issuesの一般ユーザーは20〜40代の無党派層が約8割、子育て関連から土木関連の話に至るまで、日々のくらしに密着した様々な相談がユーザーから寄せられています。

また政治家ユーザーは、自由民主党、公明党、立憲民主党、日本維新の会、無所属など多岐にわたる所属政党の方々にご利用いただいています(こちらに掲載されていない政党に所属する議員の方のご利用も歓迎しています)。

issuesのご利用に関心を持っていただける方は、政治家向けのサービス紹介サイトをご覧ください。

利用者の方へのインタビュー記事もありますので合わせてご覧ください。

【追伸③】issuesを活用した基礎自治体への政策提言に関心のある企業・団体の方へ

issuesでは以下のような取り組みも実施しています。ご興味いただける方は all@the-issues.jp までお問い合わせください。

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