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5か年計画に基づく「オープンイノベーションの推進」

オープンイノベーションの意義

「スタートアップ育成5か年計画」における柱の1つとして、「オープンイノベーションの推進」が挙げられています。取り組みの説明の冒頭で「旧来技術を用いてきた企業が持続的に存続するのに、スタートアップと連携して新技術を導入することの有効性」を指摘しています。つまり、スタートアップ育成策として掲げつつも、既存の大企業の存続を意識した視点、ひいては、日本経済の生き残りを意識しているのが、特徴的といえます。

オープンイノベーションは、大企業とスタートアップという組み合わせに限らず、企業内部と外部のアイデア・技術を組み合わせることで、革新的で新しい価値を創り出すイノベーション手法と説明されます。海外における大企業のオープンイノベーションの例として、P&Gやフィリップスなどが知られています。近年では、国内でもKDDI、SONYなど大企業主導のオープンイノベーションの成功事例が紹介されるようになってきました。

また、大手企業によるスタートアップの買収が、スタートアップのエグジット戦略(出口戦略)としても重要である、という論もあります。現状、日本におけるエグジットはIPOの割合が大きく、欧米に比べてM&Aの件数は圧倒的に少ないためです。

具体的な取り組み

オープンイノベーション推進の具体的な取り組みとしては、9項目が列挙されています。今年に入って議論が進められている策を含めて紹介します。

1. オープンイノベーションを促すための税制措置等の在り方

いわゆる「オープンイノベーション促進税制」として、これまでも、スタートアップと連携して行う研究開発投資に関しての優遇措置や、スタートアップをM&Aする場合に、新規発行株式について所得控除の対象でしたが、5億円以上の発行済みの株式の取得についても対象になり、取得金額の25%が控除対象、所得控除額は最大50億円/件(取得金額ベースで200億円/件)まで認められるようになります。

2. 公募増資ルールの見直し

現在、公募増資を行う場合、日本証券業協会の自主規制において、資金の充当期限が原則1年以内等と定められていることが、大企業によるスタートアップへのM&Aの妨げとなっているとされ、一律の資金の充当期限を撤廃するなど、自主規制を改正して、2023年度中に施行するとしています。

3. 事業再構築のための私的整理法制の整備

先進諸国で広く採用されている、事業再構築に向けて、債権者全員の同意がなくても多数決により債務減額などが可能になる制度を早急に整備する(法案を提出する)としています。早期に事業再生に向かえる利点があります。認定支援機関による伴走支援を条件に、経営者の退任を求めない事業再生が推進されるといいます。

4. スタートアップへの円滑な労働移動

5か年計画では、我が国の終身雇用を前提とした働き方、副業・兼業の禁止、新卒一括採用偏重といった雇用慣行を見直すことで、スタートアップへの人材移動を円滑にすることの重要性を指摘していました。これを受けて、今年5月に発表された「三位一体の労働市場改革の指針」では、「成長分野への労働移動の円滑化」のための施策として
・失業給付制度の見直し(リスキリング取組みなら自己都合でも会社都合と同じ扱いに)
・退職所得課税制度等の見直し(勤続20年を超えると1年あたりの控除額が増える制度を見直しやiDeCoの拠出限度額と受給開始年齢の上限引き上げ)
・自己都合退職に対する障壁の除去(自己都合だと会社都合より退職金が減る制度の見直しを促す)
・副業・兼業の奨励(副業・兼業人材の受け入れ企業に支援)
などが掲げられています。

5. 組織再編の更なる加速に向けた検討

大企業発のスタートアップ創出を促進するため、スピンオフを行う企業に持分を一部残す場合についても課税の対象外となりました。さらに、事業会社等に存在する優れた技術・人材の流動化によるイノベ-ションを後押しするため、ベンチャーキャピタル等と協調して外部の経営資源活用による事業化に取り組む事業会社等やカーブアウトする者に対する研究開発活動を強力に支援するなど、大胆な事業再編を促進するための措置について検討を行うとしています。

6. M&A を促進するための国際会計基準(IFRS)の任意適用の拡大

5か年計画では「日本の会計基準では、のれんの処理について定額法等により規則的に償却を行うと定められている。のれん償却費が買収企業の収益を継続的に圧迫するとの指摘がある。このため、企業に対して、のれんの償却を行わない国際会計基準(IFRS)の任意適用を拡大することを促す。」としており、金融庁や経済団体による議論や意見表明が続いています。

その他、
7. スタートアップ・エコシステムの全体像把握のためのデータの収集・整理
8. 公共サービスやインフラに関するデータのオープン化の推進
9. 大企業とスタートアップのネットワーク強化
についても、推進していくとしています。

参考資料URL
・内閣官房ホームページ「新しい資本主義の グランドデザイン及び実行計画 2023改訂版」(2023年6月16日)https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/ap2023.pdf

・株式会社東京証券取引所ホームページ「グロース市場の状況とフォローアップ会議における議論」(2023年5月8日)https://www.jpx.co.jp/equities/improvements/follow-up/nlsgeu000006gevo-att/cg27su00000073nj.pdf

・内閣官房ホームページ「三位一体の労働市場改革の指針」(2023年5月16日)https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/roudousijou.pdf


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