鏡
「おはよう」
君はまだ寝ぼけた顔で慌ただしく準備している。
「いってきます」
君はそう言って部屋を出た。
「ただいま」
君は疲れた顔で帰ってきた。
「お疲れ様」
君は僕を見てそう言った。
「おはよう」
今日の君はどこか楽しげだ。
いつもより気合を入れて準備している。
「デート、いってきます」
明るく弾んだ声を残し、君は部屋を出た。
「ただいま」
暗く澱んだ声が響く。顔を見ると明らかに落ち込んでいた。
「僕は大丈夫だよ」
君は笑顔を作り、そう言った。
僕は君をずっと見ている。
辛い時も悲しい時も、嬉しい時も楽しい時も。
色んな顔を見てきた。
僕は君の笑顔が好きだ。
隠さないで、僕は君だ。
何でも聞くよ。
こうやって、笑って。
重い顔を上げると自分の顔があった。
大丈夫だと言い聞かせても、やはり辛い。
全てが終わった気分になり、どうしようもなくなったその時、鏡に写った自分が優しく微笑んだ、気がした。
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