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【55 タイムスリップ】#100のシリーズ

「タイムスリップは普通の時間の流れから滑り落ちるんだ。わかるかい?」教授は言う。
「それを意識して操作しなければ、タイムトラベルは成り立たない」
ホワイトボードには、僕には理解できない数式がみっしりと書かれている。
教授はチョークの粉で咳が出るので、スライド式の黒板の代わりにスライド式のホワイトボードが設置されている。
「記録されている事例のほとんどが、未来から過去へ来た人であることにも注目してほしい」
「過去から来た人は目立たなかっただけかもしれませんよね」
教授は「確かに」と頷いた。
「未来から来た人は、当時みんなが知らない情報や、持ち物。何かしら特異な点をアピールしやすい」
教授の言葉に学生たちは頷いた。
時間旅行タイムトラベルと言うからには、行って戻らなくてはならない。戻ったという記録がないというのはどう思う?」
教授の問いに学生たちは一瞬だけざわついた。
「理論的に言えばタイムマシンも可能であるが、それに人間の身体が耐えられるか?と言えばまた別だ。だからタイムスリップが作為的なものでなく、たまたま偶然起きたものならば、再びそのたまたま偶然の状況が発生しなければならない」
教授は計算式の書かれたボードの一部を消した。

A←→B

ぽっかりとできたスペースにそれだけを書くと学生の方を向き直した。
「たまたま偶然、タイムスリップが起きる状況が発生するだけでなく、AとBが繋がる環境でなくてはならないというのも重要だ」
教授は言った。
「今よりももっと未来の人が作為的にタイムトラベルをしていた、という可能性もありますよね?」
学生の言葉に教授は「そうだね」と言った。
「少なくとも今から50年かそこらでは、タイムトラベル、タイムマシンはできてないよ」
教授は断言した。
「不満そうだね?でも、その50年前からタイムスリップしてきた僕が言うのだから間違いないよ」
普段あまり冗談を言わない教授の言葉にざわついた。
「まぁ、真実も信じないも君たちの自由だ。だけど、ある日突然、僕がここに来なくなったら、未来に帰ることができたんだと、そう思ってもらって構わない」
そう言って教授は力なく笑った。