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penguin‘s bar

「ペンギンが経営しているんじゃないよ。ペンギンを同伴して行かないと人は店には入れないんだ」
「なんだそりゃ?」
「大昔のペンギンは170cmくらいあったっていうから、立ち飲みバーだったら一緒に行けたんじゃないかな?」
「そもそも飲まないだろう?」
「ペンギンが?」
「キミが」
「全く飲まないわけじゃないよ。ペンギンと一緒だったら飲みに行くよ」
「そうなのか?」
「『あちらのペンギン様からお客様へ』なんて奢って貰ったらよくない?」
「向こうの同伴者とかおまえのペンギンはどうしているんだよ?」
「あ、そうか」
「そうだよ」
「小鳥の舌って見たことがある?」
「え?」
「歯はなくても舌はあるんだよ」
「まぁ、そうだろうな」
「ペンギンがお酒を飲むんだ。嘴をグラスの中に入れるのかな?それとも専用グラスかな?」
「何を言っているんだ?まさかそんな店が本当にあるわけないだろう?」
「まぁ、これを見てよ」
「何?え?『当店にお出でになる際は必ずペンギンを御一緒にお願いいたします』?なんだこれ?」
「イギリスに本店があるらしいんだけどね」
「イギリスって。無茶苦茶だな。むしろ北極に近いのに。どうしてわざわざ南のペンギンなんだ?」
「でしょう?おかしいよね」
「こんな条件じゃ、店はペンギンじゃなくて閑古鳥が溢れてそうじゃん」
「それはほら、よく見てよ。ペンギンのグッズでいいみたい。でもね、本物のペンギンを同伴で来たらその日の飲みしろ無料ただだって」
「マジかよ」
「どうせだったら170cmのペンギンと行きたいなぁ」
「おまえ、夢見てるなぁ」
「なんとなくだけどペンギンはビールじゃないような気がするんだよね」
「何飲むんだよ」
「ジントニックとかトムコリンズとか」
「ほう」
「あの細長いグラスに嘴刺して飲むの可愛くない?」
「おまえのいう170cmのペンギンの嘴が細いグラスに入るとは思えないな」
「先っちょだけしか入らない?あ、それもかわいいな」
「おまえ、楽しそうだな」
「んふふ。こういう妄想好き」
「で、素面なんだよな」
「なんだよ、それ?」
「それにしても知らなかったよ。おまえがペンギン好きだなんて」
「生魚しか食べてないから生臭いとは思うんだけどね」
「変なところが現実的だなぁ」
「かわいい顔して喧嘩上等の縄張り意識の高いアデリーペンギンを番犬代わりにしたいというくらいはペンギン好きだよ」
「じゃあ、今度一緒に行こうか、その店」
「いいの?」
「店に行くために先にペンギンのぬいぐるみでも買いに行こうか?」
「持ってるよ」
「俺、持ってないよ。おまえがアデリーペンギンなら、俺は一世を風靡したイワトビペンギンがいいな」
「あははは。髪が跳ねてるところ似てるよ」
「自覚してる」
「あははは」
「じゃあ、これから買いに行こうか?」