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セロリ

「ほら、この間一緒に飲んだ田辺」
「うん」
「別れたって。奥さんと」
「あらまぁ…って、あん時もいろいろ愚痴ってたからね」
「そう。でね。あの後、奥さんに離婚の話をしたらしい」
「マジで?」
「マジで」
「なんか俺たちが離婚嗾けたみたいで嫌だなぁ」
「イヤイヤ。それがさ、俺たちのっていうかおまえの話を聞いてなるほどなと思ったんだって」
「マジで?」
「マジで」
「え?どの話?」
「セロリの話。SMAPの」
「俺、何言ったっけ?」
「ボクの嫌いなセロリを好きなキミを好きだから、セロリ食べるの頑張れちゃうけど、ボクの好きなセロリを嫌いって言うキミだったら好きでいられるかな?キミといるためにセロリを食べない自分になれるかな?…って話」
「あぁ…したね。あの歌の彼女側からのを聞いてみたいって」
「うん、それ」
「田辺くんが『彼女』だったというわけ?」
「まぁ、そんな感じ」
「俺さ、常々思うんだけど、好き嫌いは否めないけど、自分の好きなものを嫌いっていう人よりも否定する人とはやっぱり無理だよな…って、これ語り出すと長いけど」
「いいよ語って」
「よくさテレビとかで旦那さんの留守中に旦那さんのコレクションとか売っちゃって喜んでいる人とかいるじゃん。あれ見て、この後旦那が離婚切り出して当然って思うんだよね。別れずにいるなら、それらのコレクションを本当に好きなんじゃないんだよなって。自分のこと否定するような相手と一緒にいられないだろう?」
「まぁな」
「関心ないならそっとして置けばいいだけなのに、それを捨てたり売ったりして、自分の欲しいもの買えるとか喜ぶような相手ってさ、どう?」
「嫌だね」
「まぁ、あそこまでじゃなくても、嫌いなものを無理強いしない、好きなものを否定しない相手とだったらやってけると思うんだよね。100%かっちりハマる相手なんていないだろうから多少に妥協は必要だと思っている」
「親子きょうだいでもね」
「そう。よく母親あたりが言うじゃない『そんなくだらないもののどこがいいの?』あれってさ信頼関係失くす言葉だよね」
「たとえ思っていても口に出しちゃいけない」
「自分には理解できなくても、相手にとっては大事なんだ…で済ませちゃえばいいのに、わざわざ訊いてくる。答えても理解しないくせにね」
「説明聞いて納得してくれるかもよ」
「いや、そういう相手なら『そんなくだらないもの』とは言わない」
「なるほどね」
「多分『セロリ』の彼女は自分の好きなセロリを彼が嫌いということでショックは受けただろうけど、『頑張ってみるよ』に希望を見出せているとは思うんだよね」
「あとは頑張った結果なんだね」
「うん。頑張りがいい結果を出せると頑張ったことになるんだろうけどね」
「ぐわぁ…せつないねぇ」
「うん。だから俺、あのセロリって歌、なるほどねとは思うけど好きじゃないんだ」
「ふたりのその後が気になって」
「そう」
「なるほどねぇ」
「まぁ、田辺くんとはまた飲もうって。あー、あっちは嫌かな?」
「いやいや。落ち着いたらまた飲みましょうって言ってた」
「そりゃよかった。まぁ、あの時一生懸命飲んでた梅酒くらいは奢るからさ」
「随分ハマってたからね。ま、そういう話」