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衝撃的光景

「今日、ショックなもの見ちゃってさ」
「何?」
「リスが車に轢かれてたんよ」
「ホントにリス?」
「うん。あの尻尾はリス」
「どこで?」
「高専と白藤学園の間の道あるじゃん」
「あぁ、あの桜並木。え?リスって桜の木に住んでるの?」
「驚くのそこ?」
「え?」
「あそこって住宅街じゃん」
「え?ひょっとして逃げたペットのリス?」
「だったら最悪だよ」
「つーかリス避けない?」
「車が?リスが?」
「どっちも。つーか、リスが避けないとしたらペットの可能性大だよなぁ」
「かもな」
「俺もさこの間ショックなの見たんだよ」
「へぇ」
「ほら、熊井の弟が勤めている店」
「あ、うん。え?なんかあったの?俺、結構あの店好きだからなくなってほしくないんだけど」
「いやいや。現場はあの店だけど、あの店の存続には関係ないショックな光景」
「どういうこと?」
「会社の飲み会からの3次会ぐらいだったかな?同じ企画室の斎藤ちゃん達と飲んでたんだけどさ」
「カウンターの並びに知世ちゃんと玖美子ちゃんがいてさ」
「うわっ!それはなかなか衝撃的な2ショット」
「まあね。槻岡と知世ちゃんが別れたのは直接は玖美子ちゃんのせいじゃないんだろ?」
「玖美子ちゃんは槻岡が知世ちゃんと別居中に一時期付き合ってたというより、槻岡が勝手に入れ込んで、いろいろ貢いでいたんじゃなかった?」
「まぁ、それで、知世ちゃんに払う養育費まで使って、馬鹿じゃないの?になって、結局、玖美子ちゃんにも呆れられてさ」
「まぁ、槻岡が馬鹿なだけだよ」
「あれでみんなを敵に回したようなものだよな」
「でもさ。なんで知世ちゃんと玖美子ちゃんが一緒にいたんだ?」
「仲良さそうに駄弁っていて、俺たちに気がついたらふたり揃ってにっこり笑って手を振ってくれてさ」
「仲良しさん?」
「うん。そうらしい」
「まぁ、気が合いそうだよね。似てるし」
「知らない人が見たら姉妹だよ。でね。衝撃的なのはそこへ槻岡が来たんだよ」
「へ?」
「彼女と一緒に」
「え?」
「入った途端に固まっててさ」
「そりゃあ固まるよ。元妻と元カノが一緒にいたんだろう?」
「もうこれ以上目を開けないっていうくらい目を見開いて凝視してた」
「で?」
「視線感じたのかな?知世ちゃんと玖美子ちゃんがふたり同時に顔を上げて槻岡を見たんだ」
「うん」
「俺の座っているところからふたりの顔は見えなかったけどさ。ほら、客が入って来た時ついつられてそっちを見たけど、見知らぬ相手だし自分たちには本来関係ない、って、顔を戻す間合いってあるっしょ」
「あぁ、なんとなくわかるわ」
「あんな感じにふたりとも再び話を始めててさ」
「うん」
「槻岡だけが固まっていて、隣の彼女も変な顔していてさ」
「うん」
「マスターが『すみません。満席です』って言ったのを聞いて慌てて出て行った」
「よかったね、満席で」
「いや、それがさ、カウンターのふたりの隣が空いてたんだよね」
「え?なにそれ?マスター、わざと?」
「どうだろう?5分もしないうちに常連さんっぽいふたり組が来て、その席に座ったんだよね」
「予約席?」
「だったのかなぁ?」
「ふうん」
「でね、槻岡と一緒にいた子、先月見かけた子と違ったんだよ」
「うわぁ、それも衝撃的な事実」
「だろう?俺が槻岡だったら、その日のデートはもうダメだわ」
「おまえだったらね。でも相手はあの槻岡だよ。別な店でその彼女に『さっきの店に元ヨメと元カノいてさぁ』とか言っていそう」
「あぁ、なんか想像できるわ。俺にはできないけど」
「俺もさ。でもその衝撃的な光景というか空気?俺も共有したかったわ」
「まぁな。俺はもうあの緊張感は遠慮するけどさ」