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ヴァンパイアの食事療法


「デトックスをお勧めします」
医者は散々PC画面の検査結果を見た後に言った。
「はぁ…」
不健康そうな顔色の患者は、溜息に似た返事を返す。
「まぁ、正直申し上げて、我々の病は我々のせいではありませんからね。それを媒介するものを摂取しなければならない立場としては、今の時代なかなか避けては通れないものです」
「同じような症状を持つ人って多いんですか?」
「そうですね。都市部に住んでいる者ほど、病気になる割合は高いですし。だからと言いって地方暮らしでは食に困る場合も多いですしね」
「はぁ…」
今度は明らかに溜息だった。
「こちらも相手のことを思って、数人から分けて頂いているのですが、なかなか健康体ばかりに巡り会えるとは限らないですからね」
医者の言葉に患者は「全くです」と再び溜息をついた。
医者は気持ちを切り替えるかのように、トントンとペンで机を叩いた。
「我々のデトックスは、飲んだ血に含まれている余計な薬の成分を体内から出すことですからね」
医者はそう言って小冊子を取り出した。
こんなものが用意されているなんて、自分と同じような病にかかっている同胞はけっこういるのかもしれない。患者は思った。薬を飲んでいない人間なんていないのではないか?薬を飲んでいないヒトがいても美味しくいただけることは少ない。薬を飲んでいないだけで、血そのものが不味くなっていることも結構ある。
「瀬良さんの数値からいくと一週間で毒素のほとんどは抜けます。ご存知のように我々は代謝が人よりもいいので1ヶ月も要しません」
瀬良も小冊子をペラペラ捲る。
「5ページの野菜ジュースデトックスをお勧めします」
「野菜ジュースはちょっと苦手で…」
「甘みですか?」
「えぇ。まぁ」
医者は「私もなんです」と言った。
「ヒトは私たちがトマトジュースとかで我慢できると思っているようですがね」
と可笑しそうに笑う。
「味もですが、栄養が足りないですよ」
瀬良が言うと医者も頷く。
「鉄分の錠剤を出しますよ。あと、野菜ジュースに数滴タバスコを落としてみてください。案外いけますよ」
「本当に?」
「塩よりもいい感じですよ。つい塩を入れがちですがね。それでは健康に良くありませんから」
「そうですね。わかりました。頑張ってみます」
医者はうんうんと頷いた。
「まぁ、我々よりも、ヒトが健康を意識してもらわないとね」
「全くですよ」
瀬良はそう言うとまた溜息をついた。