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雪の朝

冬の朝。奇妙な静けさを感じると「雪が降っているんだ」と思う。
カーテンを開くと思ったとおり雪が降っている。
音を吸い込むほどの雪は、決してロマンチックではない。
出掛ける前に雪かきをしなくてはならない。
時計は6時。外はまだ暗い。ひょっとしてぐるりと回って夕方の6時なのではないか?と思うほどの暗さだけど、改めてスマホで時刻を確認するときちんと午前6時。しかも今日は休みの日だ。
慌てる必要もないので、再びカーテンを閉めてベッドに潜り込む。
自分の作った温もりは少しも冷めることなく、むしろ、僅かな間でも寒い窓際にいた分、温もりはとても優しく感じた。
「二度寝、二度寝」
わざと声に出した。
静かな朝には自分の声がいつもよりぼやけて聞こえた。

再び目を覚ましたのは1時間後の午前7時だった。
もっと眠っていてもいいのに…と自分に対してぼやいてみた。
でも今度は声には出さない。
相変わらず、外から何も音が聞こえてこない。
一本向こうの通りはそこそこ交通量も多いけれども、雪の日は道行く車の音も、振動も不思議と伝わってこない。
カーテンの隙間が真っ白に見える。
雪はまだ降っているらしい。

不意に「ジャリジャリ」という音が聞こえてきた。
除雪車だこんな時間から、いやもっと前から除雪作業は続いているのだろう。
「ジャリジャリ、ガリガリ、ジャリジャリ、ガリガリ」
一本向こうの通りだな。
除雪車が通った後は車の振動がいつものように響いてくる。
吸われた音は雪と一緒に除雪車が道の脇にどけてしまった。
雪が溶けたら吸われた音たちは出てくるのだろうか?
「そんなわけないから」
声は少しだけ笑っていた。

「ジャリジャリ、ガリガリ、ジャリジャリ、ガリガリ」
音がすぐ近くで聞こえる。
家の前の道を除雪車が通って行くのが見えた。
こんな道まで除雪してくれるんだ…と除雪車を見送った。
「カズマ、カズマァ」
下から母さんの呼ぶ声が聞こえる。
「何?母さん」
「除雪車が作っていった壁を壊してほしいんだけど」
窓から外を見ると、確かに道路と接しているところに結構高く雪がたまっている。
「珍しく除雪車入るとこうなのよね」
母がぼやいている。
着替えて下に降りる。
玄関を出ると世界は真っ白で、一瞬だけ目が眩んだ。
「朝飯前の一仕事しますかね」
年に数回体験できる、綺麗だけどしんどい朝。
「なんだかんだで嫌いじゃないんだけどね」
声は再び雪に吸われた。