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【人魚の尾鰭の先の色】#新色できました

馴染みのカフェに置いてあったオーストラリアの雑誌を眺めていた。
読んでいたとは決して言えない。
案外と紙面にある単語は自分の知っているものが多かった。
英語で読んで英語で理解できるほど英語が堪能なわけではない。
読んだ文章を頭の中で和訳しようとしてしまう。
あっているのかあっていないのか不安になる。
もういいや…と写真を眺めていた。
アメリカの色合いよりも優しく、ヨーロッパの色合いよりも明るい。
「これが南半球かぁ」
なんて妙な感心をしながらページを捲った。
一枚のワンピース、いや、ドレスを着た女性の写真が目のついた。

How about a dress that is the color of the tip of a mermaid's tail?

「人魚の尾びれの先の色のドレスはいかが?」とでもいうのだろうか?
淡い緑のような青のような銀色のようなドレス。しかもところで濃淡が違う。どこが「人魚の尾びれの先の色」なのだろう?
残念ながらドレスはマーメイド型ではない。
1980年代アイドルの衣装のワンピースも似ている感じだった。
ジンジャーヘアと呼ばれる赤毛の彼女のキラキラ光る髪が不思議な色のワンピースにとてもよく似合った。

在宅ワークは気が楽だ。だけど誰かの話している声が聞きたくなって、ラジオをかけた。昔と違うのはその声がスマホから流れてくる。以前のようにノイズが混じることもない。
アナログ作業だが打ち出されたデータのチェックをしていく。
「なんとも言えない色なんだ。人魚の尾びれの先の色」
思わず手を止め顔を上げた。
「柔らかさの中に煌めきを感じる色っていうのかなぁ」
あの色のことか?
あの色?
あのワンピースの中にあったどの色が「人魚の尾びれの先の色なんだ?
「深い海の底にいても見つけられる煌めき」
どの色だ?
あの銀色に近い色なのか?
「荒れた波間で見たら、ホッとする、魅入ってしまう優しくも艶めかしい色というか…」
どれだ?雑誌のワンピースを思い出す。
エメラルドグリーンに似たあの色か?
だけど、一番強烈に現れたのが、モデルの明るいジンジャーヘア。違う違うと頭を振る。
ラジオのDJは「うーん」と唸り「言葉で表現するのは難しい素敵な色なんだ」と言って曲をかけた。
曲は初めて聴く外国の曲でだった。少し80年代ポップスに似た懐かしめの曲調。
「あぁ。もうダメだ」
ラジオを止めて、立ち上がる。
あの雑誌を見るために、カフェへと向かった。