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【天ぷら不眠】#毎週ショートショートnote
この地方に古くから伝わる「天ぷら不眠」という行事がある。
「平たく言えば庚申講ですな」地域の長老は言う。
「あぁ、今の若い人はわからないですかね。干支はご存じですかね?そう。還暦は?暦が還るで還暦。干支は十干と十二支の組み合わせで六十通りというのはご存じですか?百二十通りじゃないのか?算数で言うならば10と12の最小公倍数というヤツです。そう」
長老は小学校の校長だったと聞く。
「干支は年だけでなく月にも日にもあるんですよ。えぇ、だから暦を見ると書いてあります。で、その庚申の日にはですね。人の体の中にいる三尸の虫が、人の寝てる間に抜け出て、閻魔様に己の宿り主の悪事を告げ口するんです。だから、庚申の日は眠っちゃいけない。だから、みんなで集まって、24時間天ぷらを揚げるんです」
長老は涼しい顔で言うが、なかなかしんどい一夜になりそうだ。
「60日に一度の天ぷら三昧に備えて、他の日は誰も天ぷらを食べないんですよ」長老は言った。