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思い浮かばない

なーんにも思い浮かばない。
書かなくてはいけないのになーんにも思い浮かばない。
でも不思議と焦らない。
締め切りはそれなりに迫っているんですよ?こう見えても。

小学3年生の時、作文の宿題があった。
夏休みとかじゃなくて、「明日までに原稿用紙3枚分の作文を書いてきてください」な宿題。
帰り道も悩んだ。
テレビを見ていても悩んだ。
夕飯食べながらも悩んだ。
部屋に籠っていてもどうしようもなくなって、リビングでテレビを見ている家族に訴えた。
「作文の宿題が出たけど何を書いたらいいのかわからない」
「作文に書くネタがないという作文を書けばいいじゃない」と母が言った。
そっか。そんなんでも作文になるんだ。
作文の宿題を言い渡されてから、ネタが思い浮かばなくて散々悩んで、母親に相談したら「作文のネタがないという作文を書けばいい」と言われたから、今、そのままを作文に書いています。愚痴混じりで原稿用紙3枚目の最後の行にマルを書き終えホッとする。
そう。そんなふうに何とか書けるものなのだ。
たとえ提出後に職員室に呼び出され「先生はこの作文かなり好きだけど、本当に書くことがなかったの?」と訊かれても、作文の宿題はきちんと終えることができた。
「家族でどこか行って楽しかったとか、そういうのも作文にできるんだよ」先生は優しく言う。
「うーん。特に思いつかないです」
『ネタがないという作文を書け』というアドバイスをする親である。母もまた自分たちとの間に作文になりそうなエピソードを持っていなかったのだろうな、と思ったのはだいぶ後になってからだった。
その後、「他の子がいろいろ家族でのエピソードとかを書いているのに、あんただけ作文のネタがないという作文を書いていて、ご家庭で何か問題ありますか?なんて面談で先生に訊かれて恥ずかしかったわ。なんでそんな作文書いたの?」と母に言われた。
「お母さんが、ネタがないって書けば、って言ったじゃない」
「だからって書くことないでしょう。バカなんだから。わたしが恥ずかしい思いしたでしょ」
今だったら何か突っ込めたかもしれないが、小学3年生はその矛盾を飲み込むしかなかった。
もっとも、その後は作文に限らず、母には宿題はもちろん、何の相談もしなくなった。

まぁ、だからといって「ネタがない」をネタにする気はない。
こちとらプロだ。
文章を書いて飯を食っている。
きちんとネタは捻り出せる…はずだ。
ぐぅ…と腹が鳴った。
そういえば朝を食べてからずっと何も食べていない。もう3時近くになるというのに。
「腹が減っては戦も出来ぬ…何か食べよう」
そう口に出したものの、何が食べたいのか?今、家に何があるのか?まったく思い浮かばなかった。