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【優先席の微世界先生】#毎週ショートショートnote

優先席の微世界先生は目を細めとても満足そうだ。
そんな先生を見て、我々もとても満足だ。
微世界先生ことカスガ先生は農学部応用生命学科の教授で三度の飯より微生物が好き。微生物は単に小さければいいというものではない。微生物なりの世界、営みがきちんと観測できる生物を好まれる。
「ほら、ごらん。たった一滴の水の中にこんなにも複雑な世界があるのだよ」
顕微鏡を覗く先生のお決まりの台詞である。
最新式の電子顕微鏡は一度に複数の人間が対象物を観測することができる。交代でレンズを覗き込むより効率的だし、モニタを見上げるより臨場感も得られる。研究者は案外と雰囲気に弱い。覗き込む行為が如何にも「研究してます」感を演出するのだ。
その中の優先席。それはピントから光量まで、電子顕微鏡の操作を優先的にできる席だ。
カスガ先生は愛用のクッションを乗せた席に着き、満面の笑顔で顕微鏡を覗き込んでいる。
「ほら。ごらん」
先生の声に皆改めて顕微鏡を覗き込んだ。