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理想の目玉焼き

「目玉焼きの黄身が緩い方がいいか?固い方がいいか?」
「なにそれ?」
「そのまんまの質問」
「黄身はどっちでもいい。白身がきちんと焼けていれば。俺、ナマの白身苦手」
「そうなん?」
「卵かけご飯も黄身だけだもん」
「え?かぴかぴになるじゃん。啜れなくない?」
「そうかな?啜っては食べない」
「啜る啜らないはやっぱり目玉焼きだって。映画の家族ゲームのイタミジュウゾウ」
「なにそれ?」
「見たことない?」
「多分」
「家庭教師がマツダユウサクのやつ」
「俺、おまえみたいに昭和の映画見ないからさ」
「昭和?え?あれ昭和だっけ?」
「だって、マツダユウサクさん亡くなったの平成元年だぜ?」
「平成元年だぜ、って詳しいな」
「マツダユウサクさんはね。好きなんだ」
「じゃあ見ろよ、家族ゲーム」
「モリタヨシミツ監督だっけ?」
「そう」
「じゃあ見た」
「え?」
「モリタヨシミツ監督好きなんだ」
「じゃあ、わかるだろう?イタミジュウゾウの目玉焼きのくだり。『目玉焼き、チュウチュウできないだろう?』」
「あ、お父さん!」
「そう」
「イタミジュウゾウって言うからさ。イタミジュウゾウ監督の家族ゲームとかあるのかな?とか思ってた」
「やれやれ」
「黄身が緩くても吸わないけどね。とにかく白身だね。端っこがカリッと焦げているくらいのが好き」
「なるほど」
「だってさ、白身が緩いと皿に移す時に必ず崩れる」
「あぁ、それはあるね」
「だろう?で、そういうおまえはどうなんだ?」
「緩めがいいな。あ、黄身のね。白身に関してはオマエの話を聞くまではこだわりがないかと思ってたけど。うん。カリッとした感じ、いいね」
「うん」
「というわけで理想の目玉焼きを…」
「焼くのか?」
「オマエがな。オレ、カリッとを意識したことないから」
「じゃあ、意識して焼いてみろよ」
「お手本を見せてくれよ」
「・・・・・」
「・・・・・」
「仕方ないな」
「お!」
「ここは公平にジャンケンだ」
「おいおい」
「ジャンケ・・・」
「わかった、わかった」
「ん?」
「一緒に焼こう」
「何言ってんだよ。新婚さんか?」
「いいからいいから」
「全然よくないよ」

「ところで目玉焼きには何かける?」
「オマエは?」
「醤油。おまえは?」
「ケチャップ」
「え?」
「目玉焼きをご飯に乗せてケチャップかける。即席オムライス」
「・・・・・」
「何?」
「いや」
「仕方ないな。作ってやろう。即席オムライス」
「え?」
「理想の目玉焼きと一石二鳥!」
「いや、ちょっと・・・」
「遠慮するなよ」