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「信号にやたらと引っかかる日ない?」
「ある。今日がそうだった」
「え?俺も今日朝からずーっと、全部の信号が赤だった」
「全部ってことはないだろう?」
「いや全部」
「断言しちゃうんだ」
「まぁ、家から病院にしか行ってないんだけどね。その往復、全部の信号に引っかかったよ」
「そこの、家を出てすぐの信号で止まっちゃうと、全部の信号に引っかかるよなぁ」
「そう。それで帰りまで全部引っかかるってどうよ?」
「向こうからこっちだとあんまりないんだけどね?」
「だろう?」
「そもそも信号が多いんだよね」
「交差点が多いから仕方ないんじゃない?」
「交差点でなくても信号あるし」
「え?どこ?」
「バイパスとか」
「そうだっけ?」
「押しボタン式信号があるんだ」
「ふうん。多分バイパスで止まったことないかもしれない。押しボタン式信号の存在わからない」
「それもすごいな」
「そう?」
「うん。でさ、俺、今日はそのバイパスの押しボタン信号に引っかかった後はもう全部の信号に引っかかって、最悪だったんだ」
「それは不運だ」
「最初はそこで引っかかったからタイミングがいろいろズレたんだと思ったんだけどね、バイパス外れても信号引っかかるし、改めて、事務所からスタジオに移動するときも、その帰りも、本屋に寄りながら家に帰って来る間も信号に引っかかってばかり」
「なんだそれ?」
「もうホント最悪ってなった」
「わかるわ。たかが信号に引っかかるだけで、なんでこんなにメンタルやられるんだろう?ってなる」
「そう。もう呪われているような気になる」
「うん」
「呪い、明日は解けているといいね」
「そうだな。明日、あの押しボタン式信号に引っかかるかどうかだな。もし、あの信号に引っかからないで行けて、いつも通りだったら、呪いの主はあの押しボタン式信号だ」
「呪いの信号…怖いな」
「まぁ、事故るわけではないからな」
「うん。でも、まぁ、それでも呪いだよな」

細い軸に支えられて立っているあの信号が全ての信号を操っている。
年甲斐もなくそんな想像に薄ら寒さを感じる自分がおかしかった。