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アイツらしい

マダガスカルに調査に向かうアイツのために開かれた送別会のことを思い出す。
アイツは「たかが半年。しかも戻ってくるのに送別会だなんて」と言っていた。
確かに半年で再び戻ってくるが、この部署に再び配属にはならないだろう。
「あぁ。まぁ。そうだよなぁ」
調査チームには希望を出していたが、その後のことまで考えていなかったのだろう。アイツにそのことを突っ込んだら、そう言って送別会を受け入れてくれた。
思えばアイツはあの時はすでにマダガスカルに残ると決めていたのかもしれない。
大学からずっと一緒だった。
たまたま、本当に偶然、同じ会社を受けていることを知ったのは、最終面接の日だった。会場で鉢合わせた時は驚いたというものではなかった。ほとんど毎日顔を合わせたり連絡を入れていたのに、自分は最終面接に残った話をしていたのにアイツは何も言わなかった。
「あれ?言ってなかったっけ」
「言ってないよ」
「言ったつもりだったんだ。悪気はないよ」
えへへと最後に笑って誤魔化された。
半年の調査を終えて帰国したチームにはアイツの顔はなかった。
「出向という形で大学の研究チームに所属することになった」
「帰国は?いつになるんです」
「向こうの教授次第だなぁ」
「なんていい加減な」
ひと月に一度。観測データを送信してくる。それでアイツが元気だと思うことにしている。思うことにしているというのも、会社に対しての窓口も何故か大学側のスタッフだった。
アイツは今かなり奥地にいるらしく、個人的な連絡は全く取れなかった。
アイツに対して少しイラついていたある日。荷物が届いた。
「おい。これ、おまえ宛だぞ」
小さな箱だった。
『栗林晃一郎様』
箱に直接書かれていた。
開けてみると赤い石と小さなメモが一枚入っていた。
「箸置きにでも使ってください。お誕生日おめでとう」
自分の誕生日は先月だった。その下に「来年、一度戻ります」と少し丸い文字で書かれてあった。
「これだけかよ」
もうちょっと近況報告とかあってもいいじゃないかとブツブツ言いながら、箱にメモを戻した。
そして赤い石を改めて見てみると何かの化石のようにも思えた。
「これが何かの説明もほしいよ」
アイツはいつも何も言わない。
それでいて「話したつもりだった」と言う。
きっと今回だって、連絡が取れる環境になってもアイツからは連絡を寄越すことはないだろう。
帰ってきたらこのメモを見せよう。
「ほらみろ。何も説明なしだ」
そう言ってやろう。
「まったくもってアイツらしいよ」
石も箱に戻すと、箱ごと上着のポケットに入れた。
この石の正体を聞くまでは、箸置きにはしないつもりだ。