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占い師

人生で何度か占い師に相談したことがある。
みんな別々の占い師。
特に眠れないほど悩んでいるというわけではないが、八方塞がり、自分がどっちを向けばいいのか?向く先があるのか?そんな感じの時にたまたま知り合った人に相談をした。
最初は22歳。高校卒業してすぐに勤めた会社を辞めた時だった。会社の上の組織再編を機に、なんだか雲行きが怪しくなって、どうしようもなくなる前に抜けてしまった方がいいかもしれない。そんなことを思って辞めた。歩いて5分の勤務先を失うのは辛かった。でも、迫る黒雲を感じながらの日々よりも黒雲から遠ざかった方がいいに違いない。そう思って辞めたが、次の一歩が出なかった。
そんなとき、従姉の店を手伝っていたら、常連客の占い師が「みてあげるよ」と言ってきた。
姓名判断。本職はハンコ屋だという。「なるほどね」と思った。
「仕事は何をやっても大丈夫。食いっぱぐれない。28歳の時に子どもを産んだほうがいい」
本職の印鑑販売を口にしないところが紳士的だと思った。ふうん…という程度に留めておくことにした。
30歳の時、近所の美容室の常連のひとりが占い師だと知った。
リストラされるかされないかの瀬戸際の夫を占ってもらったら?と言われた。
あまり気乗りはしなかった。夫は占いを信じないのではなく、優柔不断で、誰のアドバイスにも「うん」と言えない男だった。「じゃあいちいち悩みを口にするな」と2歳になる息子を抱えていつも自分が言い返す。そんな毎日だった。
「さっさと今の仕事を辞めたほうがいい。あんたにはちっとも合ってないよ、今の仕事」
占い師は自分たちの親よりも年上の女性だった。
でも、夫は仕事を辞めなかった。仕事を辞めなかったしリストラもされない。出世もしない。それなのに会社に対する愚痴が減った。
職場恋愛に花を咲かせていたのだ。
息子を連れて家は出た。
立ち上げた仕事が忙しく、離婚するしないの話もなく過ごしていた。
それでも夫の噂はいろいろ聞こえてくる。好き勝手に恋愛を楽しんでいるようだった。
「真面目だけが取り柄だと思っていたんだけどね」
報告してくれた友人が言う。
「面倒なことになる前に別れた方がいいよ」
「そりゃそうなんだけどさ。息子も学校に入っちゃったから、中学上がる時に離婚しようかと思っているんだ」
「なるほどね」
仕事で紹介を受けた客が占い師だった。
営業ついでの世間話から夫と別居している話になった。
占い師は「ふたりの生年月日を教えてくれ」と言う。
しぶしぶ答えたそれを聞いた途端「別れて当然」と言ってのけた。
「子どもはいるの?」
息子の誕生日を教えると「なるほどね」と頷いた。
「この子に会うための結婚だったんだよ。だからさっさとこんな旦那と別れて息子と自由になった方がいいよ」
もう充分に自由にさせてもらっているような気がした。それが離婚する3年前の話だった。

最後に占ってもらったのはもう15年も前の話だ。
それ以降、目の前に占い師が現れることはない。
あの頃よりもいろいろな分岐点に直面しては、どちらが正しいかわからず、そもそも「正しい」は後付けなのかもしれないと思う人生を歩んできた。
そろそろ余生と呼んでもいいステージかもしれない。
自分は気がつくとすっかり疲れている。
また何処かで偶然に占い師に会ったら自分のこれまでとこれからを何て言うのか聞いてみたい気がする。
自分のことを何も知らない誰かに「これでよかったんだよ」と言ってもらいたい、そんな気がする。