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栞の神

八百万の神がいる国において、この神は少し悩んでいた。
『栞の神』である。

「何を悩んでいるんだ?」
「これはこれは3色ボールペンの神」
「新年早々難しい顔をして…いや、もう随分前から難しい顔をして」
「うん…自分は栞の神だが、その管轄がどこまでか悩んでいるんだ」
「なんだ、そんなことか」
「そんなことって」
「自分たちなんてここ数年、いろいろ編成し直しだったんだが、割り切ってしまえば気が楽になった」
「というと?」
「自分たちの最初は『ボールペンの神』から始まった。しばらくボールペンの神だけで十分だったが、なにぶんにも種類が増えた。そこでいろいろ話し合いが行われて、担当者を増やすことになった」
「ふむふむ」
「最初は色毎に担当するのはどうか?となった。しかしそうこうしているうちに3色ボールペンが登場した。3色ボールペンが登場したかと思ったら、あっという間に4色、5色。中にはシャープペンシルと一緒になったり、自分で色を選べたり、そうそう、2色もある。そこで、ボール径の大きさで担当を分ける話も出た。インクの種類、油性か水性かゲルインクなんてものも出てきた」
「キリがないな」
「そうだ。全てボールペンの神に任せてしまうのが一番楽なんだがそれではボールペンの神が大変過ぎる」
「うんうん」
「そこでボールペンの神の下、我々ができた。2色ボールペンの神、3色ボールペンの神、多色ボールペンの神、多機能ボールペンの神がそれぞれ担当することになったんだ」
「なるほど…」
「で、栞の神様のいうところの管轄って?」
「そう。それ。栞と名を付けられたら、それは栞だよね」
「そうだね」
「本来栞じゃなくても栞として使われていたらどうなんだろう?」
「ん?」
「レシートとか、チケットの半券とか」
「あぁ…」
「彼らは自分の管轄かなぁ、って」
「悩むよね」
「そう」
「『あれ?挟んでいたレシートいなくなっちゃった』だと管轄外」
「そうだね」
「『栞代わりに挟んでいたレシート』は」
「そこはまだ管轄外。だって、栞代わりのレシートだもん」
「もんとか言うなよ」
「まぁまぁ」
「栞の神。ホントに悩んでるのか?」
「いや本気で悩んでいる。栞と呼ぶ者もいればレシートと呼ぶ者もいるそれは栞なのか?レシートなのか?」
「ふむ・・・」
「別にレシートでいいんじゃない?」
「レシートの神!!」
「領収証の神も悩んでいたんだよねぇ。『レシートは正式な領収証です』って最近言われているけどどうしよう?って。正式な領収証かどうか知らないけど、生まれたときはレシートなんだもん。レシートでいいんだよ」
「そういうものなのかな?」
「レシートの神の言うとおりだと思うよ、栞の神」
「レシートの神がレシートだというのならレシートだよね」
「そうそう。悩むのはやめて、みんなで飯でも食べに行こう」
「いいね」
「うん。ありがとう、レシートの神」

八百万の神がいる国では、新しいものができるたびに新しい神も生まれる。生まれたあと、神がどういう生き方をするかは全て神が決めること。なんせ、彼らは神なのですから。