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【41 岐阜県関市】#100のシリーズ

小さなハサミを貰った。
「不要な縁を絶ってくれるんだよ」
今流行りの断捨離か。あまり好きではない。わざわざ名前をつけてまでモノやヒトを整理するのはどうだろう?ずっと思っている。
「いやいや。そんなんじゃないよ。もっとね。お守りみたいなものさ」
守刀なら知っているが、守鋏というのは初めて聞いた。
「何言ってんだよ。ハサミは失せ物探しをしてくれるくらい能力があるんだぜ」
あぁ、それは知っている。テレビで見た。
それにしても小さなハサミだ。指を入れるすらない。
「指で押すんだ。ちょっと待って」
そう言って自分の手帳のページを破くと、親指と人差し指で摘んだハサミで器用に切っていく。
「はい。ハート。正楽さんのようにはいかないけどね」
ショウラク?誰だ?
「切れ味は保証するよ。なんてったって関のハサミだ。知ってるかい?岐阜県関市。世界三大刃産地のひとつに数えられているんだ」
それは知らなかった。
「まぁ、鯖江のメガネ同様品質は保証するよ」
サバエ?
「御守りだからいつでも持って歩いてほしいと思ってね。そのサイズだったら銃刀法違反にもならないし」
え?ハサミも銃刀法違反の対象になるのか?迂闊に持ち歩けないな。
「これだと解りにくいかもしれないけど、刃の部分、切れるところが8cm以下で先が鋭くないものなら問題ない。これはほら。先が丸いし。それに刃の部分は1cmぐらいだ。飾りについてる房の方が大きいよ」
なるほど。そういうことか。
「実はね。自分も貰って会社のデスクの引き出しに入れていたんだ。忘れていたわけじゃない。縁を切ってくれるなら切ってもらいたい相手が会社にはいるからね」
意外だと思った。敵を作らないキャラというイメージがあった。敵を作らないといっても嫌いなヤツはいて当然かもしれない。
「部長補佐とかいうよくわからないポストにいた相手なんだけど、ハサミを引き出しに入れて2ヶ月しないで転勤になったんだ。地方の営業支社の支社長なんだけど。ご栄転なのか飛ばされたのかよくわからない移動なんだよね」
偶然じゃないのか?
「もうひとり。春に入った新人の女の子なんだけど。正直使えない子でね。その子もいなくなっちゃった」
へぇ。たまたまにしてはすごいな。そりゃあ、ご利益信じてオススメしたくなるのもわかる。
「ものすごい御利益かどうかは受ける側が決めることだけど。まぁこのハサミさんを信じてみるのも悪くないかもよ」
ありがたく頂戴させて頂きます。

これでこいつと疎遠になったら・・・と密かにビビったのは、ここだけの話。


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