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【舞うイチゴ】#シロクマ文芸部

「舞うイチゴ?」
「え?」
「舞うイチゴって…」
「違うよ。美味いイチゴって言ったんだよ」
「あぁ、そうだよね。うん。びっくりした」
「イチゴが舞うわけないだろう」
「いや、だから、俺もそう思ってるから驚いたんだ。何言ってんだ?って」
「フン」
「なんだよ。鼻で笑いやがって」
・・・春山とはいつもこうだ。春山の滑舌が悪いのが悪いんだ。

「舞うイチゴ?」(あれ?前もあったな?)
「ん?ハ・マ・るイチゴ」
「美味しいってこと?」
「美味しいっちゃ、美味しいけど。不思議な味。自然の味じゃないね。でもハマる。イチゴ平気?アレルギーとかある?」
「いや、ないけど」
「今度獲れたら、おまえんとこ持ってけ、って母ちゃんが」
「いつも分けてもらってばかりで申し訳ない」
「いやいや。あれは食べてもらいたい。普通のイチゴじゃない。イチゴヨーグルト?ババロア?なんかこう人工的に作られた甘さ?」
「へぇ」
「品種改良ってことは人工的なんだろうけどさ。楽しみにしてて」
・・・夏川のお母さんは、いつも新しい食べ物見つけるよなぁ。しかもそれを育てちゃうんだからすごいよ。

「舞うイチゴ?」(二度あることは三度ある)
「そう。舞うイチゴの夢」
「あ、夢ね」
「夢でよかったよ。マジ、怖かったぁ」
「イチゴが怖いって?」
「イチゴに手足生えてるんだ。よく見ると足なんかすね毛生えてるし」
「デカいの?イチゴ」
「大粒ではあったなぁ」
「人のサイズじゃないんだ」
「もちろん」
「もちろんって…でも、なんで怖いの?」
「イチゴが俺の周りで踊るの。いくつもいくつも。なんか俺に恨みあるのか?って感じで」
「おまえ、イチゴ嫌い?」
「大好きだ」
「あ、そう。で?」
「ウザいと思ってイチゴをひとつ捕まえるんだ。手足をバタバタさせて抵抗するんだけど、イチゴには違いないじゃん。夢の中の俺はイチゴを食べようとするんだ」
「うん」
「でも、手足がやっぱり邪魔だと思って、俺、その腕を一本引っこ抜くんだ」
「怖っ」
「そう。夢を見てる俺もエグいと思うんだけど、夢の中の俺は、もう一本の腕を抜いて」
「うわっ」
「周りにいたイチゴたちがひとつにまとまって震えている。手の中のイチゴも震えている。俺は今度はそのイチゴの左足の足首を掴んだ」
「うわぁ」
「そこで目が覚めたんだ。すんげぇドキドキしていてさ。怖かったぁ」
「確かに」
・・・そんな夢を見た後だというのに、秋本、イチゴトッピングいっぱいのイチゴパフェ食べてる。

「舞うイチゴ?」(もうこれは定番の挨拶だな)
「そう。坂を転がるオレンジのように」
「え?わけわかんない」
「ほらよくあるでしょ?買い物袋からオレンジが幾つか転べ落ちて、それを拾った主人公と恋に落ちる」
「あるね」
「そのオレンジがイチゴだったら、どういうになるだろう、って」
「何?今時そんなドラマでも撮るわけ?」
「どうだろう?」
「何それ?」
「イチゴは落ちても転がらないと思うわけだよ」
「スルーかよ」
「落ちた衝撃で潰れるかもしれないし」
「・・・」
「落ちたらもうおしまいだから、落ちる前だな、と。そしたら、舞うイチゴの絵が浮かんでね・・・どうだろう?」
「『どうだろう?』って?」
「視聴者の代表の忌憚ない意見を聞かせてくれないか?」
・・・これだよ。冬木はいい奴なんだけど職業病というかなんというか。しかもハイセンス過ぎるんだよな。

「それにしても」
大きく息を吐き独りごちる。
「『舞うイチゴ』ってパワーワードすぎやしないか?」
今度は誰がその言葉を発するか?密かに楽しみにしている自分がいる。
「仕方ない。イチゴを買って帰りましょうか」
思わず舞ってしまいそうな美味しいイチゴに巡り逢えますように。

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