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【76あからさま】#100のシリーズ

「あからさますぎるよ」
テーブルを叩きながら男が言う。
相手は「何が?」という顔をしている。
もちろん彼らを取り囲む他のテーブルの客も「何が?」という顔をしている。
おそらく自分もみんなと同じように彼らの方を向いているだろう。
テーブルを叩いた男に相手が「まぁ、落ち着けよ」と言ったが、男はそのまま伝票を手に立ち上がると、席を離れ、出入り口近くのレジに向かった。
「待てよ」
相手の男も立ち上がった。
だけど追いつくことなく、勘定を済ませた男は店を出ていった。
「話は見えないけど、すごいもん見ちゃったって感じだよね」
彼女が言った。
彼女を家に送り届け、部屋に戻った。
なんてことなくテレビをつけた。
遅い時間なのでローカルCMが流れている。
テレビに背を向けて洗面所に向かう。
手を洗ってうがいをした。
彼女とこのまま付き合って、結婚に至るのだろうか?
イメージがわかない。
部屋に戻ると、テレビはドラマを映していた。
寝室に入って着替えをする。
彼女とは付き合って半年。
何となく気になって、何となく親しくなって、「付き合う」という形になって2ヶ月ぐらい経って、友人に「お前らいつの間に付き合っていたんだ?」と言われた。
部屋着どころか寝巻きに着替えて、そのまま寝てもいい時間だったが、寝室を出た。
「あからさまだな」
声がした。
「え?」
テレビの画面には、顔は知っているが名前の知らない俳優が映っている。
少しだけ、さっき店で見た男の人に似ているような気がした。
しかし、何があからさまなのかわからない。
それまで見てなかったから仕方がない。
僕はテレビを消した。
そして「あ・か・ら・さ・ま」と口にした。
「あからさま」
スラリと言えた。
「初めて言ったよ」
と自分で言っておかしくなった。
誰かに「あからさま」なんて言うことがこれからあるのだろうか?と思った。
全くイメージがわかない。
僕は歯を磨いて寝ることにした。


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