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【61舌先三寸】#100のシリーズ

「舌先三寸は舌の先から虚空に向かっての三寸なのか舌先から奥に向かっての三寸なのか?」
「は?」
「考えたことない?」
「ねえよ。棚卸しの作業中に話しかけんなよ。どこまで数えたかわかんなくなるだろう?」
「俺さぁ、舌先三寸のことを考え始めると夜も眠れないんだ」
昔の漫才に「地下鉄の電車。どこから入れたのか考えると夜も眠れない」というネタがあった。まさにそれだと僕は思っている。
「それは何より。眠らずに数えてくれよ」
部品工場の棚卸しはキツい。
何種類もある螺子を一個一個数えていく。
「舌の根の乾かないうち…って言うけどさ。乾いたらヤバいよね舌の根」
俺はそう言うと大きな溜息をついた。
「ヤバいかどうか、舌の根が乾くまで、口開けて待ってみなよ」
「え?やだ」
「じゃあ、黙って数えろ」
そうだ。むしろ、話しっぱなしの方が舌の根は乾くんじゃないか?口を閉じて黙ってしまったら、舌の根は潤ってしまう。
うん。うん。
僕は自分の思考を思わず褒めた。
相方の視線を感じながら、部品たちの数を数えた。


実際、舌先三寸って?

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