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真夜中の電話

「昔はさ、夜中とかに電話が鳴ると誰か死んだかな?とか思わなかった?」
「何?怪談話?」
「違う、違う。固定電話がメインだった頃だよ。電話を掛ける時間も遅くなるとダメだよなぁ、とか気を遣っていた頃」
「小学生ぐらいの頃?」
「あれ?」
「ん?」
「いつから携帯持ってる?」
「中学生かな?小学生の時も塾に行くときは子ども用の携帯持って行った」
「そうかぁ。俺は高校デビューだからな」
「ふうん」
「あ、じゃなくてさ。ところでイエデンある?」
「あぁ…FAXをね、親が使っているんだ。通販?」
「あれ?おまえ実家暮らし?」
「そう。俺ここ地元だもん。実家出たことない」
「そうなんだ」
「あ、でもさ。思い出したよ。少し前だけど12時くらいにイエデンが鳴ってさ。俺がちょうど寝ようかなと思って自分の部屋に行こうとしたときだったんだよね。ナンバーディスプレイで番号確認したら知らない番号で、出なかったんだよ」
「うん。で?」
「それでおしまい」
「え?」
「でも次の日、親が『何の電話だった?』って訊いてきて、出なかったと言ったら、『なんかあったのかと思った』って言うから『なんかって?』って訊いたら『スガヤマのおじさんでも亡くなったのかと思った』って言うんだよね」
「うん」
「何言っているんだろう?と思っていたら、母の携帯が鳴ってさ、スガヤマのおじさんが昨夜亡くなったって。スガヤマのおじさんって、母親の叔父なんだけど結構親しくしてたんだよね」
「うん」
「昨夜の電話は虫の知らせってヤツ?って訊いたら、おじさんの息子の嫁さんが掛けて寄越してたんだって」
「ほらね。夜中の電話ってやっぱり緊急なんだよ」
「でもさ。死んじゃったって電話いつでもよくない?」
「え?」
「急いで知らせたところで亡くなった人が生き返るわけでもなし」
「いやまぁそうだけど。とにかくさ、緊急事態じゃないと昔はさ電話が夜中に鳴ることなかったのにさ、今は時間関係なく電話掛かってこない?」
「あぁ、あるね。しょうもない電話が掛かってくる」
「慌てて出てしょうもない電話だったときはもうホント嫌になっちゃうよ。だからスリープモード?鳴らないようにしている」
「え?何時から?」
「23時から6時。就寝時刻から起床まで」
「案外早く寝るんだ」
「ん?23時が早い?」
「その日のうちに寝たことないから」
「朝何時に起きるんだよ」
「6時半頃?」
「なぜ疑問形?」
「何でだろう?」
「そっちは夜中に電話掛かってこない?」
「来るね。早朝も」
「マジ。でも会社からだったら出る」
「会社から掛かってくる?」
「深い時間は多いよ」
「マジ?」
「システムトラブルは四六時中掛かってくるね。営業2課と経理が多いね。あの人たちいつまで会社にいるの?」
「知らないよ。でもそうなんだ」
「まぁイエデンだったら家族と一緒だったら遠慮してくれるのかもね」
「そう。そこ。俺が言いたかったのは」
「直接繋がると思えば遠慮なく掛けてくるの勘弁」
「まぁ、そうですね」
「ようやくわかってもらえたかぁ」
「回りくどいんだよ、話が」
「そうか」
「そうだよ」
「悪い」
「何で謝るんだよ。ま、11時から6時までは電話掛けても出ないというのがわかった分よしとするか」
「何だ?」
「まぁまぁ」