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【36サウナ】#100のシリーズ

「まずは水筒。魔法瓶タイプの水筒が持ち込まれていないかどうかの確認」
轟鬼とどろき警部補の声が響く。
「サウナでの殺人事件の基本な」
「警部補殿。死因は窒息死と思われます。氷で刺し殺すトリックは該当しないと思われます」
「窒息死だが首を絞められた類の跡は見当たらないだろう?二酸化炭素、ドライアイスを用いているかもしれん」
轟鬼警部補の言葉に現場の捜査官たちは騒つく。
なるほど刑事ドラマおたくは伊達じゃない。とでも言っているかのようだった。
「それにしても湿度が高い」
「フィンランド式ロウリュサウナだ」
「警部補殿はサウナにも造詣が深いのですか?」
新人の橘は轟鬼のシンパである。
「曾祖父がバイキングでな」
「なるほど」
何がなるほどなのか?とふたりのやり取りを聞いていた者たちの中には思う者もいるかもしれないし、シカトを決め込んでいる者もいるかもしれない。実際のところ彼らのやり取りなど誰も気にしてはいなかった。そのくらい現場は錯綜としていた。
殺されたのは、かねてより大規模な談合汚職事件で警察がマークしていた経済界の大物。殺された場所は会員制のサウナ。
「まさに裸の付き合い。お互いの手の内どころか全てを曝け出していたはずなのに、まんまと殺されるとはね」
轟鬼警部補は汗だくの額を手袋で拭いながら言った。

「どうです?『会員制サウナ殺人事件』」
「タイトル、なんとかならないでしょうか?はっきり言ってダサいです」
「じゃあ『ロウリュ殺人事件』」
「ん?一瞬ナイル殺人事件に似ていると思ってしまった。悔しい」
「じゃあ『ロウリュ』で」
「あと先生、不必要に800枚、32万字も書かれていますがこれを何とか200枚、多くても300枚に収めてほしいです」
「なんだって?」
「轟鬼警部補、サウナ入り過ぎです。これじゃあ、体に良くないです」
「そうなのか?」
「そうですよ。あ、先生実はサウナ未経験じゃありませんか?今度お連れしますよ。サウナ」
「いかがわしくないだろうな?」
「なんです?いかがわしいって」
「いやいいんだ」
「まぁ、一度きちんとサウナ経験した方がいいですよ。サウナで整って、お話の方もきっとすっきり整います」
「そうなのか?」
「えぇ。では先生。改めてご連絡します。何とか800枚を200枚にお願いしますね」

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