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【着の身着のままゲーム機】#毎週ショートショートnote

着の身着のままゲーム機に向かう。
所謂デバッカーというやつだ。
以前はゲーム制作のもっと別な部分に携わってきた。
技術的に時代遅れになった俺はそれでもゲームの世界にしがみついている。
繁忙期はこうして会社で寝泊まりをしている。
勿論、独身だ。
かつて稼いだ給料も使う暇なくきているから、今ここで仕事を辞めても、今も老後も生きていくだけなら問題ない。
むしろこうして老体(嫌な言葉だ)に鞭打つ生活をしているよりいいかもしれない。
「チッ」
バグで中断。
報告を入れる。
ついでにコーヒーを淹れようと立ち上がる。
ドアがノックされる。
同い年の専務がこざっぱりとした格好で立っている。
「なんか用か?」
「呼びにきた。現場にこだわらず、こっちに来ないか?」
こっちとはゲーム企画の部門だ。
「俺の古い頭なんか要らないだろう?」
「古いからこそ必要だと言ったら?」
時代は繰り返す。
「まぁ、着の身着のままというわけにはいかないがな」
その言葉に苦笑するしかなかった。